あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】


そんな好き勝手な会話を繰り広げてる親族の傍で、
ビールを注ぎながら、俺は早く終わって欲しいと時間をやり過ごした。



あの日……孝輝の京都でのLIVEが終わった後、
俺がアイツらの車を運転して、次の名古屋まで移動させるはずだった。

だけど直前になって、研修先の病院から連絡が入りその日のうちに新幹線で戻ることになった。


新幹線で京都から戻ってそのまま仕事に入った俺が仕事を終えてスマホを手に取った時、
初めて留守番電話に残されていたアイツらの交通事故と孝輝の死を知った。

家族が亡くなったことを上司に伝えて、休みを貰うと慌ててとんぼ返りで伊勢へと戻った。


告別式が終わっても、アイツが居なくなった実感はなかった。
ただ罪悪感と、麻痺してしまったような心が俺を凍てつかせていった。


孝輝に繋がる音楽を聞くことも、アイツと一緒に映る写真縦も伏せて
何も考えることのないように、仕事に、勉強に走り続けた。

孝輝のことを考えてしまうと、俺自身が壊れてしまいそうで
立ち止まって歩き出せそうになかったから。

アイツのことを考えないように過ごし続けた半年で、
四十九日の法事も仕事を理由に帰ることをしなかった。



孝輝の死と言う現実から、目を背けて逃げ続けることが出来れば
どんな楽だろう。


だけど……そんなことは許されるはずがない。


あの日……俺が約束通り、運転してたら……こんなことにはならなかったのかもしれない。
俺があの場に居たら、もっと早く応急処置くらい出来て助けられたかもしれない。

もう戻ることのない『もし』ばかりが、浮かんでは消えていく。



「お兄ちゃん、はいっ」


そう言って俺の隣に座って、新しいビールを親族たちに注ぎながら
俺の手には、烏龍茶の入ったグラスを手渡す妹の七海。


「なつみ……」

「ほらっ、ここは私に任せて。
 お兄ちゃん、辛そうな顔してる。

 叔父さん達に何言われても、スルーして聞き流してたらいんだよ。

 ここは私が面倒みるから、何だったら病院から電話が入ってきたとか適当に理由つけて
 出ちゃっていいから。

 お父さんや、お母さんの了解も貰ってる」


七海はそう言うと、俺を追い出すように掌を前後にひらひらと振って
叔父さん達の会話の輪の中へと入っていった。


台所に顔を出すと、母さんは叔母さんたちと慌ただしく振舞の仕度をしてる。



「あらっ、孝悠くん。
 何かいる?」

「いえっ、母さんは?」

「はるちゃんは、あれっ……さっきまでそこで、熱燗してたけど……いないわね」


そう言ってキョロキョロとする。
台所から場所を返して二階へあがると母さんと父さんは寝室にいた。


「どうかした?二階で」

「あぁ、孝悠。
 ちょっとお父さん、疲れちゃったみたいで」


その声に慌てて父さんの傍に駆け寄って状態を確認する。 


「慌てるな。
 少し疲れただけだ。

 お前も疲れただろ。明けでこのまま一周忌だ。
 もう少ししたら私も降りる。

 孝悠もアパートに帰って休みなさい」


疲れている父さんにまで、気にかけられて……
追い打ちをかけるように「孝悠、法事は終わったわ。もう休みなさい」っと
母さんにまで続けられた。

そんなに今の俺は心配されるような、酷い顔をしているのだろうか。

慌てて母さんの鏡台の扉をあけて鏡を覗き込む。
鏡に映る俺は、疲れ果てた貌をしていた。


「これじゃ、心配されて当然だね。
 俺もアパートに戻って休むよ。
 父さんたちも無理しないで。
 しんどかったら、理由話して、早めにお開きにして貰って」


そう言葉を残して、自室で喪服から私服へと着替えると
病院からの呼び出しを理由にして、自宅を後にした。


だけどそのままアパートに帰っても眠れそうになかった。


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