あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】
「少し付き合って貰えるかな?」
そう言って車をとめて運転席を降りた先生は、
助手席のドアを開けて、私が立ち上がりやすいようにエスコートしてくれた。
お寺の奥には、沢山のお墓が並んでいるのが見える。
パンドラの箱が開くのを確信した瞬間だった。
先生に案内されるままに連れられた場所。
そこは『垂髪家先祖代々の墓』っと記された一つのお墓。
「楓文ちゃん、少しここで待ってて。
そこで水汲んでくるから」
そう言って先生がお墓を離れると、私の視線はお墓の隣にある
墓標に刻まれた名前を辿って行く。
そこには『垂髪だれだれ』っと、
この中に眠る人たちの名前・享年・戒名が記されていた。
その中の一つに目をとめる。
垂髪孝輝・享年27歳。
そして……読めない漢字が続いているものの、その中の一つに輝っと言う文字と、音と言う感じを見つける。
亡くなった年齢はUNAの年齢と同じ……。
こんな近くに、UNAは眠ってたの?
そう思ってると、孝悠さんがお水を持って帰ってきた。
まだ綺麗な花筒から、花を抜き出して水を入れ替えると
お墓にお水をかけて用意していたタオルで墓石を拭いていく。
そして線香をつけると、ゆっくりと私に向き直った。
「此処に垂髪孝輝が眠ってる。
孝輝のもう一つの名前は『Rose LostのUNA』。
去年の夏、京都でのLIVEを終えて名古屋に移動中に新名神高速で事故にあって他界した。
君が……楓文ちゃんが大好きな、あのUNAが此処に眠ってる」
そう言って先生は、辛そうに話してくれた。
その場で体の力がストンと抜けてしまったみたいに、崩れ落ちてしまった私を
背後から慌てて先生が支えてくれた。
目の前のお墓を見つめながら涙が止まらなくなって、
UNAが本当に居なくなってしまったことが、現実へと変わっていく。
現実の実感がないから、何処かで……ふぅーっとUNAが出てきて
LIVEをしてくれるような錯覚が残ってた。
だけどこのお墓を目の当たりにして、その小さな光は消えてしまった。
「孝輝と俺は一卵性の双子なんだ。
だから……多分、楓文ちゃんは俺を見て最初驚いたんだと思うよ」
淡々と先生自身を責めるようにも聞こえる言い方で、
事実を告げていく真実。
その真実はあまりにも近すぎて……そしてあまりにも残酷だった。
その後、暫く墓地から動くことが出来ずにずーっとお墓を見つめ続けていた私を
先生はじっと動きだすのを静かに待っててくれた。
再びベンツに乗り込んたのは昼前。
気がついたら数時間も、あの場所で過ごしてた。
近くのコンビニ車をとめて、冷たい飲み物を買ってくれた先生は私に手渡すと、
そのまま車を伊勢道のインターの方へと走らせた。
ベンツはそのまま伊勢道を走り抜けて新名神へと走って行く。
新名神を走り続けて草津田上で降りると、そのまま上り入口から再び新名神へと戻って行く。
そして先生は……上り車線のある場所に差し掛かった時、
再び口を開いた。
「ここが孝輝が事故った場所なんだ」
絞り出すように告げる先生の言葉。
私は何が出来るわけでもなく、
通り過ぎたその場所に、助手席の窓を開けて振り返る。