あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】
「此処に垂髪孝輝が眠ってる。
孝輝のもう一つの名前は『Rose LostのUNA』。
去年の夏、京都でのLIVEを終えて名古屋に移動中に新名神高速で事故にあって他界した。
君が……楓文ちゃんが大好きな、あのUNAが此処に眠ってる」
伝える俺自身もその一言一言の重みに、
吐き出すように告げる。
だけど彼女のショックは俺の想像を超える形で体に現れた。
突然、力が入らなくなったように傾いた体を
背後から必死に支えあげると、彼女をゆっくりとその場に座らせた。
彼女はその場で涙を零し、大声で泣き崩れた。
俺はなんて、残酷なことをしてるんだろう。
責める俺。
そんな彼女の隣に寄り添って支えながら、
孝輝に話かける。
『楓文ちゃん連れてきた……。
お前は幸せだよな。
お前が居なくなっても、こうやってお前を慕って泣いてくれるやつがいる。
兄ちゃん、残酷だよな。
逃げてばかりで……傷つけてばかりで、バカだよな。
でも……こうするしか、前に進める気がしなかったんだ』
そんな風に、ただひたすら孝輝に話かけながら
彼女が泣きやんで落ち着くのを待ち続けた。
蝉の鳴き声が暑さに拍車をかけ、太陽の日差しが、照りつける。
汗が吹きだしていくのを感じながらも、
彼女はその場所から、今も動こうとしなかった。
水分を買いに行きたいと思っても、この状況を招いた俺が
彼女の傍を今、離れることだけは避けないといけない。
彼女がゆっくりと立ち上がって、俺に向き直ってくれたのは
正午に近づいた頃だった。
再び車に戻った俺は、お寺の駐車場から車を走らせて
急いでコンビニの駐車場に車を停めて、飲み物を購入して彼女に手渡した。
俺自身も飲み干す勢いで喉を潤すと再び車を伊勢道の方へと走らせた。
伊勢道から新名神へと車を走らせて、
草津田上でインターを降りて、再び新名神の上りへと乗る。
京都からのLIVEを終えて名古屋に向かう途中、
1年前のこの日、数時間後に俺が運転しているはずの道だった。
だけど……あの日、俺はこの道を運転することが出来なかった。
沈黙が車内を包み込んでいく。
あの日……LIVEを終えて疲れ果てた状況で、
何を思いながら、この道を走ってたんだろう。
また……ありもしない、『もし』を俺自身に問い続ける。
もうすぐ……この道の先が……孝輝が旅立った事故現場。
あの日から、一度だけ父に連れられてこの場所を知らされたものの
俺一人では通ることのなかった道。