あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】
「どうぞ、こちらのお席にお願いします」
そう言って案内されたのは、一階の一番奥にある窓際のテーブル。
ドキドキしながら座っていると、お水と、お手拭きが運ばれてくる。
初体験に体を小さくしてると、先生は笑いながらもっとリラックスしていいんだよっと
優しく声をかけてくれる。
だけど……天井にシャンデリアだよ。
緊張しないはずないじゃん。
しかもメニュー表、まだ来ないし。
私……今、手持ち少ないんだよ。
こんなことなら、もう少し銀行でお金おろして来たら良かった。
カード……カードで払えるのかな?
そんなことを考えながら、いろんな意味でドキドキで次を待ってるなんて
先生にはバレたくない。
そうこうしていると、頼んでもいないのに次から次へと
テーブルに料理が運ばれてくる。
「えっ?私まだ注文してない……」
「あっ、ごめん。
好き嫌いあったかな?
予約した時に、先にコースを注文した後なんだ」
先生の『コース』と言う言葉に、血の気が引いたのは言うまでもない。
沢山の料理が次から次へと運ばれてきてその料理に手を付けるものの、
お会計のことが不安で、料理の味がわからない。
うっ……どうしよう。
こんな時、歩乙衣とか碧夕だったら、居酒屋で終わったし……
祥永の時は、喫茶店に入って終わりだった。
想像外だよ。こんな展開。
「お口に合う?」
食事を進めながら、先生は向かい側に座る私を気にかけてくれる。
「はいっ。美味しいです」
そうやって会話を返しながら、神様に謝罪する私。
神様・仏さま。
すいません……味なんてわかりません。
でもこんなに凄い店なんだから、美味しいはずですよね。
「次は北京ダックが来るはずだから。
ここの北京ダック、小さい時から好きなんだよね」
小さい時から?
「孝輝と俺、いつも取り合いしてたんだよ」
UNAと取り合い?
それは凄く興味深い味だけど……益々、お支払いが気になって
食事を楽しめそうにありません。
あぁ、楽しいはずなのに胃がむかむかしてきてる。
そう思ってると、先生が自分の席から立って覗き込むように私の隣へと座りこんだ。
「気分悪い?
今日……強いストレスをかけつづけてたから、
胃がびっくりしてるかな?」
心配してくれる先生に……これ以上、嘘はつけないと
気になってるお支払いのことを口にする。
すると先生は耳打ちするように
『気にしなくていいよ。俺が最初から支払うつもりだから』っと
囁くように伝えてくれた。
げんきんなものでその一言を聞いてスーッと精神的に楽になった私は、
その後から運ばれてきた北京ダックを堪能して海老料理に、
魚料理・汁そばと、運ばれてくるコースメニューを綺麗に味わいながら楽しんだ。
全てを食べ終えた頃には、お腹はパンパンでもう何も入らないほどいっぱいになった。