あなたと出逢わなければ 【第一楽章のみ完結】


父さんが入院している病室へと続くエレベーターに乗り込んで、
病室を訪ねるとベッドの上で退屈そうな姿を見せる。


「おぉ、孝悠。戻ってきたか」

「今朝帰ってきた。
 んで、調子は?

 母さんの話だと要領得ないんだけど」

「あぁ、胃癌が見つかった。
 最近、吐き気やげっぷが続くなぁーっとか、
 鳩尾の辺りが気になるなぁーって思ってたんだけどな。
 
 まさか胃癌が見つかるとはびっくりだったよ」


そうやって苦笑いしながら俺の問いに答える父さん。



「それでこれからの予定は?」

「早期発見だったとかで、金曜日に内視鏡で手術が決まったよ」

「わかった。

 とりあえず担当医の先生にも挨拶してくるよ。
 んで母さんは?来た?」
 
「少し病室に顔を出して、コンビニに飲み物買いにいったよ」

「了解。
 んじゃ、俺少し挨拶に行ってくるわ」



父さんの病室を後にして、スタッフルームの方へと顔を出して
研修先の指導医からの縁で、紹介して貰った先生を訪ねる。

その後は連れられるままに順番に挨拶回りを終えて、
最後に、父さんの担当医の先生へと挨拶する。


詳しくは伝わってこなかった病状も把握できて、
ホッとしたところで、俺は再び病室へと顔を出した。



「挨拶終わったよ。
 後、ついでに院内をぐるっと歩いてきた。

 父さんの検査結果も見せて貰って来たよ。
 早期に発見出来て良かったな。
 七海にも安心するように伝えなきゃな。

 んじゃ、俺病院出るけど母さんはどうする?」

「あぁ、じゃあ今日は私も行こうかね。
 んじゃ、父さん明日また来るから」

「じゃあ、明日も連れて来るよ」


母さんと一緒に病室を出ると、
そのまま1階へと降りて駐車場に停めてある車へと向かった。

駐車料金を支払ってバーを開けると、
車はゆっくりと動き出す。



「孝悠、帰って来てお参りには行ったかい?」

「まだ行ってないよ。
 帰りに少し寄ればいいかなって思ってたからさ」


そのまま内宮へと車を走らせて、一番近くの駐車場へと停めると
鳥居を潜って、中の庭園を歩き続けて、五十鈴川の水で手を洗い清める。

そして階段を登って本殿にてお参りを終えると、
そのまま本殿を後にして、神楽殿の前を歩いていく。


神楽殿では、神楽の音色が響いていた。
そのまま【鈴守】を一つ受けて車へと戻る。




まだ初々しい巫女の接客が何故か微笑ましかった。



 
 
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