意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「どう? 少しは俺にときめいた?」
「え?」
「俺は下心満載で動いていたよ。君の心を掴みたくて、必死でね」
「……」
冗談だよ、と静かに笑う木島は、いつもの木島だった。
無精ひげが生えていて、スーツはヨロヨロ。だけど、格好良かった。
色気ダダ漏れの様子に、私は酔ってしまったようだ。
「……ドキドキしたわ」
「え?」
目の前の木島は驚いて目を見開いている。しかし、きっと木島より私自身の方が驚いているに違いない。
私はこの胸の高鳴りをどうしたらいいのかわからず、木島に問いかけた。
「なんか胸がドキドキした。なによ、これ。病院行った方がいい!?」
仕事でだってこんなふうにパニックに陥ったことはない。それなのに今、どうして私はパニックに陥っているのだろう。その理由さえもわからない。
ねぇ、どうしてかしら。木島に何度も聞くと、彼は大きくため息をついた。
「さすがは菊池女史。斜め上を行く意見をありがとう」
私はお礼を言われたいわけじゃない。この不可解な気持ちはどこから来ているのか。
木島に分析してもらいたいだけだ。それなのに――――
「は……え!?」
突然木島は私に手を伸ばし、あの夜のように抱きしめてきた。
今は、あの夜よりもっと胸が高鳴っている気がする。口から飛び出してきそうなほどだ。
そんな私の耳元で、木島は色気たっぷりの声で囁いた。
「ほら、さっきと同じでドキドキしない?」
「……さっきよりもっとドキドキしているかもしれないわ」
素直に答える私に、木島は優しく諭した。