意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「それが異性を意識した証拠で、恋の始まりだ」
「こい……? 鯉? 故意?」
「今、君の頭の中で全然違う漢字に変換されてしまった気がするけど」
そういって苦笑する木島は、最後に私に呟いた。
「一度気がつけば、すぐにわかるよ」
それだけ言うと、私を腕の中から解放し、雑務処理へと向かってしまったのだ。
一度気が付けば、すぐわかる。そう木島は言った。だが、私の中で葛藤は続いている。
なんとか首を免れ、平常が戻ってきた今日この頃。
田中も失脚し、他社へと出向し平和が訪れた。
菊池家もこれで静かになることだろう。姉がかなりキツイお灸を父にしてくれたという話を聞いたからだ。内容は怖くて聞けてはいないけど。
晴れて自由の身になった私は、爽快感でいっぱいである。
ああ、これで仕事に打ち込める。そう思っていたのに……。なんで木島を見ると胸が苦しくて、嬉しくなるのだろう。
もしかして、もしかしなくてもこれが恋ってヤツなのだろうか。いや、誰か違うと否定してほしい。
私はこれからも仕事一筋で生きていく所存である。恋だの愛だのに構っている暇はないのだ。
それなのに、社内で木島を見つけると、どうしても嬉しくなってしまう。
だがしかし、それを本人に悟られるのは癪である。必死に隠そうとするのだが、それが挙動不審に見えるのだろう。
木島は私を見てとても嬉しそうにしている。
そのことがとても悔しいが、私が木島に意識しているのは間違いない。