意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
20 レア系女史の恋煩い
(ああ、私……絶対におかしいわ)

 NYから戻ってきて一週間が経ったのだが、この一週間という間、私はずっとおかしい。
 何がおかしいって……言い出せば切りがないのだが、とにかくおかしいのだ。
 木島ばかりを追い求めてしまい、挙動不審になってしまうのである。
 予想はしていたが、まさかここまで酷く恋煩いをするとは思わなかった。
 私は自他共に認めるほどのワーカーホリックだ。それは木島と付き合いだした今も変わらない。
 ただ、変わったことがある。
 今までは仕事にのめり込みすぎて時間を忘れたり、何も耳に入ってこなくなったりと集中しすぎることが多々あった。
 今も仕事にはのめり込んでいる。だけど、時折木島の姿を探してしまうのだ。
 同じような背丈の男性が通り過ぎると目で追って、そして木島じゃないとわかると落胆する。
 そんなことの繰り返しを、この一週間ずっとしてしまっているのだ。
 木島はただいま沢コーポレーションNY支店でバリバリと仕事をしているはず。
 昨日のメールで今月末までは日本に帰国できないと書かれていたから間違いない。
 それなのに今も尚、木島の姿を探してしまう。いないとわかっていてもこの有様。
 まったく困ってしまう。
 木島のことを思い出すだけで胸がドキドキしてしまって苦しいほど。
 心臓でも悪くなったのかと一瞬不安が過ぎったが、これが世間一般でいう恋だというやつなのだろう。
 三十路を越えてから恋というものを自覚した私は間違いなく奥手だ。
 いや、奥手なんてもんじゃない。天然記念物級だと言われても反論ができない。
 それもこの現象が恋というものだと木島に指摘されるまでわからなかっただなんて……。とてもじゃないが人には言えない。
 恋というものは青春時代に経験しておくべきものだろうと、私は後悔の念を抱いている。
 他の人はともかく、私に至ってはしておくべきだった。
 恋とはなんぞやと今さら頭を悩ますぐらいなら、さっさと初恋というものを経験しておけばよかった。
 今さら嘆いても過去は戻らない。仕方がないことだとわかっているが、かなり悔やまれる。
 とは言っても、私の周りの人間はどいつもこいつも家柄ばかりを見るとんでもない輩ばかりだったから、そんな環境で恋をしろと言っても無理なことだけど。
 この歳になってからようやく恋をしているのだと自覚をした私だが、NYにいる木島の元へ行ってからというもの心穏やかに過ごすことができない。
 油断すれば、すぐに木島の影を探してしまう。これは間違いなく恋の病というヤツなのだろう。
(ダメ! こんなことでは仕事にならないわ!)

 パンパンと頬を何度か叩く。ふと視線を上げて時間を確認すれば、お昼をとっくに過ぎていた。

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