意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「休憩を取ろうかしら」
パソコンをシャットダウンし、私は財布を持って会社を出る。
昼時で人がごった返すロビーを抜け、自動ドアを抜けたあと目を細めた。
空を見上げれば雲一つない青空。そこに一機の飛行機が見える。
(あの飛行機に飛び乗れば、木島さんに会えるのかしら)
ふとした瞬間、脳裏に浮かぶのは木島のことばかり。
ああもう、と地団駄を踏みたくなる。いきなり叫んだらさすがに周りに引かれるだろうか。そう考えて、ハァと小さく息をつく。
私は自他共に認めるワーカーホリックだ。ここは何度も強調しておく。
そんな私が恋愛ごとで頭を悩まされる日がくるなんて思わなかった。それになにより性に合わない。
合わないはずなんだけど……
私は大きくため息をついた。
こんなふうにネガティブになるときは、決まってお腹が減っているのだ。
いつものように牛丼特盛り汁ダク玉入りを食べれば、きっと元気になれるはず。
私はヒールの音を響かせ、サラリーマンたちでごった返す牛丼屋へと入っていく。
興味の視線で見られていることはわかっているが、そんなのこちらとしては知ったことではない。もう、へっちゃらだ。
このお店に出入りし始めてから早うん年。そんじょそこらのOLとは比べものにならないほど牛丼屋に通っている。相当の年期が入っているのだ。
私はいつもどおりカウンターのスツールに座ると、店員にいつもと同じメニューを注文する。
「牛丼特盛り汁ダク玉入り……ひとつ」
いつもなら二人前だ。それぐらいペロッと食べれてしまう。
だが、二人前と頼むことに躊躇してしまったのは、やはり元気がない証拠なのだろうか。
何度かため息をついている間に、注文していた牛丼が私の目の前に置かれた。
湯気が立ち上り、美味しそうな香りで私の食欲を刺激する。
しかし、提供された牛丼を前にため息が出てしまう。
今日だけで一体何度ため息をついたことだろう。
ため息をついた分だけ幸せが逃げていく。そんなふうによく言われるが、今日の私のため息の数は相当なもの。かなりの幸せを逃してしまったかもしれない。
牛丼屋に来ても、木島の影を探してしまうあたり私は重傷だと思う。
木島と初めてこの牛丼屋を訪れたのは、彼が失恋をした日だった。
あの夜には、まさか自分がこんなふうに木島に恋をすることになるとは思ってもいなかった。
人生って本当に不思議である。
とにかく、まずは腹ごしらえだ。割り箸を手に取り、パチンと音を立てて割る。
そしていつものように牛丼のどんぶりを手に、ワシワシと口に運んだ。
おいしい。少しは元気が出てきた気がする。
思わず涙目になるのは、牛丼の湯気のせいだ。そうに違いない。
ああ、本当に私はどうしてしまったのだろう。
木島ひとりのことで一喜一憂し、彼の姿を探してしまうだなんて……。
日本から遙か遠く離れた異国の地にいることはわかっている。
それなのに彼の姿を追い求めてしまうだなんて。
恋ってなんて恐ろしいものなのか。仕事一筋でプライベートのことは見向きもしなかった私を狂わしていくだなんて。
(それに私はとてもタイミングが悪い女なのかもしれない)
牛丼を口に運びながら、木島とNYで再開した日を思い返しため息を零す。
そして、カバンの奥にしまっている”あるもの”を思い出し、どうしようかと再びため息をついた。
パソコンをシャットダウンし、私は財布を持って会社を出る。
昼時で人がごった返すロビーを抜け、自動ドアを抜けたあと目を細めた。
空を見上げれば雲一つない青空。そこに一機の飛行機が見える。
(あの飛行機に飛び乗れば、木島さんに会えるのかしら)
ふとした瞬間、脳裏に浮かぶのは木島のことばかり。
ああもう、と地団駄を踏みたくなる。いきなり叫んだらさすがに周りに引かれるだろうか。そう考えて、ハァと小さく息をつく。
私は自他共に認めるワーカーホリックだ。ここは何度も強調しておく。
そんな私が恋愛ごとで頭を悩まされる日がくるなんて思わなかった。それになにより性に合わない。
合わないはずなんだけど……
私は大きくため息をついた。
こんなふうにネガティブになるときは、決まってお腹が減っているのだ。
いつものように牛丼特盛り汁ダク玉入りを食べれば、きっと元気になれるはず。
私はヒールの音を響かせ、サラリーマンたちでごった返す牛丼屋へと入っていく。
興味の視線で見られていることはわかっているが、そんなのこちらとしては知ったことではない。もう、へっちゃらだ。
このお店に出入りし始めてから早うん年。そんじょそこらのOLとは比べものにならないほど牛丼屋に通っている。相当の年期が入っているのだ。
私はいつもどおりカウンターのスツールに座ると、店員にいつもと同じメニューを注文する。
「牛丼特盛り汁ダク玉入り……ひとつ」
いつもなら二人前だ。それぐらいペロッと食べれてしまう。
だが、二人前と頼むことに躊躇してしまったのは、やはり元気がない証拠なのだろうか。
何度かため息をついている間に、注文していた牛丼が私の目の前に置かれた。
湯気が立ち上り、美味しそうな香りで私の食欲を刺激する。
しかし、提供された牛丼を前にため息が出てしまう。
今日だけで一体何度ため息をついたことだろう。
ため息をついた分だけ幸せが逃げていく。そんなふうによく言われるが、今日の私のため息の数は相当なもの。かなりの幸せを逃してしまったかもしれない。
牛丼屋に来ても、木島の影を探してしまうあたり私は重傷だと思う。
木島と初めてこの牛丼屋を訪れたのは、彼が失恋をした日だった。
あの夜には、まさか自分がこんなふうに木島に恋をすることになるとは思ってもいなかった。
人生って本当に不思議である。
とにかく、まずは腹ごしらえだ。割り箸を手に取り、パチンと音を立てて割る。
そしていつものように牛丼のどんぶりを手に、ワシワシと口に運んだ。
おいしい。少しは元気が出てきた気がする。
思わず涙目になるのは、牛丼の湯気のせいだ。そうに違いない。
ああ、本当に私はどうしてしまったのだろう。
木島ひとりのことで一喜一憂し、彼の姿を探してしまうだなんて……。
日本から遙か遠く離れた異国の地にいることはわかっている。
それなのに彼の姿を追い求めてしまうだなんて。
恋ってなんて恐ろしいものなのか。仕事一筋でプライベートのことは見向きもしなかった私を狂わしていくだなんて。
(それに私はとてもタイミングが悪い女なのかもしれない)
牛丼を口に運びながら、木島とNYで再開した日を思い返しため息を零す。
そして、カバンの奥にしまっている”あるもの”を思い出し、どうしようかと再びため息をついた。