意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
27 似た者同士?
掴んでいたネクタイを離して、腕を下ろす。
私は今、非常に困惑している。どうしたらいいのか、正直わからない状態だ。
チラリと木島を見れば、彼は目で訴えている。実家に電話をしろ、と。
婚姻届の証人の欄、それがすべてだ。木島はそう言っていた。
テーブルに置かれた婚姻届に再び手を伸ばす。
ペラペラのこの紙が、なにか重要なことを私に伝えているというのだろうか。
確かに署名は父の字であるし、実印も菊池のもので間違いはない。
木島が実家に行って、父を説得してくれたのだろう。
だけど、いくら木島が交渉術に長けていたとしても、あの菊池の頑固親父だ。
そんなにすんなり結婚を許してくれるとは到底思えない。
もう一度木島に視線を送る。
すると彼は真剣な顔をしてひとつ大きく頷いた。
大丈夫だから、そう目が物語っている。
こうしていても膠着状態で何も進まない。ウダウダ考えこんでいる間に問題解決をした方が賢明であろう。
よしっ、と心の中で覚悟を決めると、カバンからスマホを取り出した。
アドレスを開き、ほとんどかけないナンバーを見つめる。
前に電話をしたのは……ああ、それでも少し前だ。
私と田中の婚姻を菊池家が促したとわかったときに電話したのが最後。
それでもふた月ぐらい前か。
その前なんて何年も連絡をしなかったのだから、今日電話をすれば最短記録かもしれない。
正直、あまり電話をしたくない。だけど、この状況を打破するためにはどうしても父と話さなければならないだろう。
エイッと思い切って通話を押す。何度目かのコールのあと、「もしもし、麻友か」といつもどおりの感情が込められていない声が返ってきた。父だ。
「はい、こんばんは。ご無沙汰してます」
『ああ』
会話が繋がらない。相変わらずの私たちの関係性に苦笑が浮かぶ。
それでもこうして電話をかけた以上、用件を話さなければならないだろう。
私は意を決して口を開こうとしたのだが、父の声にかき消された。
『お前から電話が来たということは……見たのか』
「え?」
『婚姻届だ』
「……ええ」
やはりあの筆跡、実印は間違いなく父の物だったようだ。
何も言わない私に、父は突然むせび泣きだした。
驚いたなんてものじゃない。あの父が、まさか泣き出すなんて思わなかった。
いつも私を目の敵のように、あれこれと理屈を言い、雁字搦めにしていた父。
家を出て、自分の力で就職する。そう宣言したときも、し烈な親子げんかをしたものだ。
父は私を籠の鳥にし、自分が決めた男と結婚させ、菊池家の駒として使おうとしていた。
それに反発した私はこれまで菊池家に戻ることはなく、ただひたすら仕事に打ち込んできた。
沢コーポレーションを辞めるとき、それは私が籠の鳥になるということ。
だからこそ、必死に今まで働いてきた。
私の自由を奪い、自分の好きなようにしようとしていた父。
その父が、今……電話先で泣いている?
「ちょ、ちょっと……お父さん?」
慌てふためく私を余所に、父のむせび泣く声が聞こえる。
すると電話先でなにやら声がし、電話を替わったようだ。
私は今、非常に困惑している。どうしたらいいのか、正直わからない状態だ。
チラリと木島を見れば、彼は目で訴えている。実家に電話をしろ、と。
婚姻届の証人の欄、それがすべてだ。木島はそう言っていた。
テーブルに置かれた婚姻届に再び手を伸ばす。
ペラペラのこの紙が、なにか重要なことを私に伝えているというのだろうか。
確かに署名は父の字であるし、実印も菊池のもので間違いはない。
木島が実家に行って、父を説得してくれたのだろう。
だけど、いくら木島が交渉術に長けていたとしても、あの菊池の頑固親父だ。
そんなにすんなり結婚を許してくれるとは到底思えない。
もう一度木島に視線を送る。
すると彼は真剣な顔をしてひとつ大きく頷いた。
大丈夫だから、そう目が物語っている。
こうしていても膠着状態で何も進まない。ウダウダ考えこんでいる間に問題解決をした方が賢明であろう。
よしっ、と心の中で覚悟を決めると、カバンからスマホを取り出した。
アドレスを開き、ほとんどかけないナンバーを見つめる。
前に電話をしたのは……ああ、それでも少し前だ。
私と田中の婚姻を菊池家が促したとわかったときに電話したのが最後。
それでもふた月ぐらい前か。
その前なんて何年も連絡をしなかったのだから、今日電話をすれば最短記録かもしれない。
正直、あまり電話をしたくない。だけど、この状況を打破するためにはどうしても父と話さなければならないだろう。
エイッと思い切って通話を押す。何度目かのコールのあと、「もしもし、麻友か」といつもどおりの感情が込められていない声が返ってきた。父だ。
「はい、こんばんは。ご無沙汰してます」
『ああ』
会話が繋がらない。相変わらずの私たちの関係性に苦笑が浮かぶ。
それでもこうして電話をかけた以上、用件を話さなければならないだろう。
私は意を決して口を開こうとしたのだが、父の声にかき消された。
『お前から電話が来たということは……見たのか』
「え?」
『婚姻届だ』
「……ええ」
やはりあの筆跡、実印は間違いなく父の物だったようだ。
何も言わない私に、父は突然むせび泣きだした。
驚いたなんてものじゃない。あの父が、まさか泣き出すなんて思わなかった。
いつも私を目の敵のように、あれこれと理屈を言い、雁字搦めにしていた父。
家を出て、自分の力で就職する。そう宣言したときも、し烈な親子げんかをしたものだ。
父は私を籠の鳥にし、自分が決めた男と結婚させ、菊池家の駒として使おうとしていた。
それに反発した私はこれまで菊池家に戻ることはなく、ただひたすら仕事に打ち込んできた。
沢コーポレーションを辞めるとき、それは私が籠の鳥になるということ。
だからこそ、必死に今まで働いてきた。
私の自由を奪い、自分の好きなようにしようとしていた父。
その父が、今……電話先で泣いている?
「ちょ、ちょっと……お父さん?」
慌てふためく私を余所に、父のむせび泣く声が聞こえる。
すると電話先でなにやら声がし、電話を替わったようだ。