意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
『麻友よね?』
「姉さん、これは一体どういうことなの?」
食ってかかる私に対し、姉さんはフフッと楽しげに笑った。
『もうね、こっちは大変よ。お父さん、すでに花嫁の父の心境らしくてね。昨日から泣き暮らしてるわ』
「泣き暮らしているって……」
冗談だとしても笑えない。いや、これは絶対に冗談だ。
信じない私に、姉さんは「本当のことよ」とこれまた信じられないことを平気で言う。
『昨日、木島さんがうちにお見えになったの。そのときに正式に麻友と結婚したいと申し出されたわ』
「あ、うん」
そうでなければ、私の目の前に証人欄まで記載された婚姻届はないだろう。
小さく返事をすると、姉さんは思い出したように噴き出した。
『木島さんって、なかなか強引な方ね。あのお父さんがぐうの音もでないほどだったわ。
私としては、菊池に婿入りしてもらって政治家を目指してもらいたいと思ったほどよ』
「姉さん……それはちょっと」
私も木島は政治家向きじゃないかと思ったことも実はある。
だけど、菊池に婿養子に入ってだなんて……それはちょっと現実的ではない。
難色を示す私に対し、姉さんは「冗談よ」とカラカラと笑う。
『菊池の方で、貴女の最近の素行調査をしていたの』
「素行調査って!!」
声を荒げると『落ち着いて、麻友』と冷静に姉さんは言う。
だが、内容が内容だ。落ち着いてなどいられない。
しかし、姉さんは穏やかに話し始める。
『田中さんとの縁談が破談になったあと、お父さんが心配して貴女の身辺を調査していたの』
「心配って……どうせ、お父さんは私の周りに男がいないか。調べたかっただけでしょう? 心配ってなによ。お父さんが心配しているのは菊池家のことだけで、私のことは無視でしょう? 菊池家安泰に繋がるような家柄の男と結婚させたいがための調査なんでしょう?」
父が心配することなんてそんなところだ。
やっぱり電話しなければ良かったと後悔していると、姉さんは困ったように呟く。
『ねぇ、麻友。前に私が言ったこと覚えている?』
「え?」
『麻友とお父さんは似たもの同士で、頑固者だって』
ついでに素直じゃないし、と姉さんは失礼なことを言う。
確かに頑固なところはあるかもしれないが、あんなに性格は悪くないはずだ。
そう反論すると、姉さんは「そっくりよ、気が付いていないだけね」ときっぱりと言い切った。
『お父さんが貴女にとやかく言ったり、なんとかして菊池が選んだ男と結婚させようとしていたのはね。貴女を傍においておきたかったからなの』
「な、何を言っているのよ」
そんなはずはない。優秀で家の思うとおりに動く姉さんのことを父は溺愛していたし、私のことなどは菊池家の駒としてしか見ていなかった。
「お父さんは姉さんのことばかり見ていたじゃない」
『お父さんは意地っ張りだから、素直に言えなかったのよ。麻友を傍に置いておきたいって。そもそもお父さんが言う貴女の結婚相手の条件は、地元にいる男性で菊池の家から近い場所で暮らしてくれる人。それが第一条件だったのよ』
「でも、田中さんは」
彼は私と同じで沢コーポレーションに勤めていた。
とても菊池家がある辺りから通勤するとなれば時間がかかりすぎて無理だ。
そう反論すると、姉さんはフゥと小さく息を吐き出した。
「姉さん、これは一体どういうことなの?」
食ってかかる私に対し、姉さんはフフッと楽しげに笑った。
『もうね、こっちは大変よ。お父さん、すでに花嫁の父の心境らしくてね。昨日から泣き暮らしてるわ』
「泣き暮らしているって……」
冗談だとしても笑えない。いや、これは絶対に冗談だ。
信じない私に、姉さんは「本当のことよ」とこれまた信じられないことを平気で言う。
『昨日、木島さんがうちにお見えになったの。そのときに正式に麻友と結婚したいと申し出されたわ』
「あ、うん」
そうでなければ、私の目の前に証人欄まで記載された婚姻届はないだろう。
小さく返事をすると、姉さんは思い出したように噴き出した。
『木島さんって、なかなか強引な方ね。あのお父さんがぐうの音もでないほどだったわ。
私としては、菊池に婿入りしてもらって政治家を目指してもらいたいと思ったほどよ』
「姉さん……それはちょっと」
私も木島は政治家向きじゃないかと思ったことも実はある。
だけど、菊池に婿養子に入ってだなんて……それはちょっと現実的ではない。
難色を示す私に対し、姉さんは「冗談よ」とカラカラと笑う。
『菊池の方で、貴女の最近の素行調査をしていたの』
「素行調査って!!」
声を荒げると『落ち着いて、麻友』と冷静に姉さんは言う。
だが、内容が内容だ。落ち着いてなどいられない。
しかし、姉さんは穏やかに話し始める。
『田中さんとの縁談が破談になったあと、お父さんが心配して貴女の身辺を調査していたの』
「心配って……どうせ、お父さんは私の周りに男がいないか。調べたかっただけでしょう? 心配ってなによ。お父さんが心配しているのは菊池家のことだけで、私のことは無視でしょう? 菊池家安泰に繋がるような家柄の男と結婚させたいがための調査なんでしょう?」
父が心配することなんてそんなところだ。
やっぱり電話しなければ良かったと後悔していると、姉さんは困ったように呟く。
『ねぇ、麻友。前に私が言ったこと覚えている?』
「え?」
『麻友とお父さんは似たもの同士で、頑固者だって』
ついでに素直じゃないし、と姉さんは失礼なことを言う。
確かに頑固なところはあるかもしれないが、あんなに性格は悪くないはずだ。
そう反論すると、姉さんは「そっくりよ、気が付いていないだけね」ときっぱりと言い切った。
『お父さんが貴女にとやかく言ったり、なんとかして菊池が選んだ男と結婚させようとしていたのはね。貴女を傍においておきたかったからなの』
「な、何を言っているのよ」
そんなはずはない。優秀で家の思うとおりに動く姉さんのことを父は溺愛していたし、私のことなどは菊池家の駒としてしか見ていなかった。
「お父さんは姉さんのことばかり見ていたじゃない」
『お父さんは意地っ張りだから、素直に言えなかったのよ。麻友を傍に置いておきたいって。そもそもお父さんが言う貴女の結婚相手の条件は、地元にいる男性で菊池の家から近い場所で暮らしてくれる人。それが第一条件だったのよ』
「でも、田中さんは」
彼は私と同じで沢コーポレーションに勤めていた。
とても菊池家がある辺りから通勤するとなれば時間がかかりすぎて無理だ。
そう反論すると、姉さんはフゥと小さく息を吐き出した。