意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
28 菊池式、愛の言葉
「君のお父さんが俺を認めてくれた。それは先ほどの電話と婚姻届を見てもらえばわかってもらえただろう?」
「ええ」
「これで一つ麻友の杞憂は消えたはずだ。菊池家が俺との結婚を認めてくれたということは、会社を辞めても実家に帰らなくていいということだ。それと同時に菊池家が決めた男との結婚もなくなった」
そのとおりだ。
私が必死に仕事をしてきた理由のひとつに、沢コーポレーションを辞めることがあれば実家に戻って菊池家が用意した男性と結婚するという約束事があった。
だからこそ、ここまで必死に仕事一筋で生きてきた。
もちろん、それだけじゃない。今の仕事にやりがいを感じているからでもある。
木島と出会ったことにより、自分一人で仕事をしてきたんじゃないということにも気が付いた。
営業事業部の面々がいたからこそ、今の自分がある。そう断言できる。
木島に指摘されて以降、私は彼らたちにも頼るということができるようになった。
そうすることにより仕事も円滑に進み、なにより信頼関係が築けているようになったと思う。
今、やっと仕事の意味というものを噛みしめている真っ最中だ。
菊池家との約束事がなくなった今だが、仕事を辞めたくない。それが本心だ。だけど……
私を包み込んでいる腕を見つめる。
木島の腕の中はとても温かい。他人に対して、そんな思いを抱く日が来るだなんて思わなかった。
それぐらい彼といることは居心地がいい。いや、違う……愛おしい。離れたくない。
本当はNYと日本という距離が苦痛でしかたがない。
今は文明の利器がたくさんある。いつも繋がっているという安心感はあるが、それでもこうしてぬくもりが欲しいときはある。
抱きしめてほしいときに、そこに木島はいない。そんな夜を過ごしてきた。
だから、こうして木島が私を欲してくれていて、結婚したい、ずっと一緒にいたい、そう言ってくれることはとても嬉しい。
私だって「喜んで」とほほ笑んで、木島に着いていくことができたらどんなにいいか。
だけど……仕事を辞める決断はなかなかできない。
まさか結婚と仕事、どちらを取るか。そんな悩みを抱えることになるとは思ってもいなかった。
黙り込み、木島の腕をギュッと握る。すると、私を抱きしめる腕に力をより込めた木島。
嬉しい、愛おしい、離れたくない……だけど。
いつまでも平行線を辿り、解決に導くことができないことに苛立ちを覚える。
「なぁ、麻友」
「……なに」
「麻友に確認しておきたいことがある。……君は俺のことを好きかい?」
「当たり前なこと聞かないでよ」
わかっているくせに、相変わらず意地悪な男だ。恥ずかしさのあまり木島の腕の中で俯く。
すると私の耳元で、木島は甘く囁いた。
「君の声で、言葉で確認したい。ダメだろうか」
「っ」
木島は私を腕の中から解放し、顔を覗き込んできた。
彼の熱い視線を頬に感じながら、私は小さく呟いた。
「好きよ。……悔しいけど、好きなの。離れたくない!」
私から木島の腕に飛び込んだ。考えてみたら初めて私から彼を欲した瞬間だったかもしれない。
いつも木島から誘導されて言葉を紡ぎ、彼の手によって抱きしめられていた。
だけど、今は私から木島を抱きしめたかった。
私の口は本当に素直じゃない。残念ながら姉さんが言ったとおりだと思う。
だからこそ、木島に伝えたい。身体中で貴方だけが必要だ、と。
ギュッと彼の細身の身体に抱きついた。だけど、いつものように彼は私を抱きしめてはくれなかった。
「ええ」
「これで一つ麻友の杞憂は消えたはずだ。菊池家が俺との結婚を認めてくれたということは、会社を辞めても実家に帰らなくていいということだ。それと同時に菊池家が決めた男との結婚もなくなった」
そのとおりだ。
私が必死に仕事をしてきた理由のひとつに、沢コーポレーションを辞めることがあれば実家に戻って菊池家が用意した男性と結婚するという約束事があった。
だからこそ、ここまで必死に仕事一筋で生きてきた。
もちろん、それだけじゃない。今の仕事にやりがいを感じているからでもある。
木島と出会ったことにより、自分一人で仕事をしてきたんじゃないということにも気が付いた。
営業事業部の面々がいたからこそ、今の自分がある。そう断言できる。
木島に指摘されて以降、私は彼らたちにも頼るということができるようになった。
そうすることにより仕事も円滑に進み、なにより信頼関係が築けているようになったと思う。
今、やっと仕事の意味というものを噛みしめている真っ最中だ。
菊池家との約束事がなくなった今だが、仕事を辞めたくない。それが本心だ。だけど……
私を包み込んでいる腕を見つめる。
木島の腕の中はとても温かい。他人に対して、そんな思いを抱く日が来るだなんて思わなかった。
それぐらい彼といることは居心地がいい。いや、違う……愛おしい。離れたくない。
本当はNYと日本という距離が苦痛でしかたがない。
今は文明の利器がたくさんある。いつも繋がっているという安心感はあるが、それでもこうしてぬくもりが欲しいときはある。
抱きしめてほしいときに、そこに木島はいない。そんな夜を過ごしてきた。
だから、こうして木島が私を欲してくれていて、結婚したい、ずっと一緒にいたい、そう言ってくれることはとても嬉しい。
私だって「喜んで」とほほ笑んで、木島に着いていくことができたらどんなにいいか。
だけど……仕事を辞める決断はなかなかできない。
まさか結婚と仕事、どちらを取るか。そんな悩みを抱えることになるとは思ってもいなかった。
黙り込み、木島の腕をギュッと握る。すると、私を抱きしめる腕に力をより込めた木島。
嬉しい、愛おしい、離れたくない……だけど。
いつまでも平行線を辿り、解決に導くことができないことに苛立ちを覚える。
「なぁ、麻友」
「……なに」
「麻友に確認しておきたいことがある。……君は俺のことを好きかい?」
「当たり前なこと聞かないでよ」
わかっているくせに、相変わらず意地悪な男だ。恥ずかしさのあまり木島の腕の中で俯く。
すると私の耳元で、木島は甘く囁いた。
「君の声で、言葉で確認したい。ダメだろうか」
「っ」
木島は私を腕の中から解放し、顔を覗き込んできた。
彼の熱い視線を頬に感じながら、私は小さく呟いた。
「好きよ。……悔しいけど、好きなの。離れたくない!」
私から木島の腕に飛び込んだ。考えてみたら初めて私から彼を欲した瞬間だったかもしれない。
いつも木島から誘導されて言葉を紡ぎ、彼の手によって抱きしめられていた。
だけど、今は私から木島を抱きしめたかった。
私の口は本当に素直じゃない。残念ながら姉さんが言ったとおりだと思う。
だからこそ、木島に伝えたい。身体中で貴方だけが必要だ、と。
ギュッと彼の細身の身体に抱きついた。だけど、いつものように彼は私を抱きしめてはくれなかった。