意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)

 私の気力が削られるほどだから、よっぽどだと考えてもらって間違いない。

 さすがは好きな女を追いかけて、転職してしまうほどの情熱家。一筋縄ではいかない男である。

 元気な時に彼の相手をするには、なんとかなる。
 しかし、この頃の私は色んな意味で疲れているし、今日はもうお腹がぺこぺこだ。
 木島の相手をするほど、私の気力も体力も残っていない。

(気力よ、もう少しだけもってちょうだい)

 心の中で願いながら、早くエレベーターが来ないかと願う。

 視線を合わしたくなくて俯く私だったが、次の瞬間飛び上がってしまった。
 彼は腰を屈め、私の顔を覗き込んできたのだ。

 彼の強い眼差しが、至近距離で私の目を捕らえている。
 身体は疲れていて反応は鈍いが、きっと表情は隠しきれていないだろう。

 目を丸くして驚いてしまった。

「どうした? 菊池女史。元気がないようだけど。体調でも悪いか?」

 心配そうに私を見つめる木島を見て、ハッと我に返る。弱い自分を他人に見せていることに羞恥を覚え、私は取り繕うように冷静に答えた。

「大丈夫、心配は無用よ」
「この頃の菊池女史は元気がないように感じるな。俺と出会った頃の貴女はもっと元気があったように思うけど」
「……」

この男のいうことは正しいかもしれない。私は小さくため息を零した。

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