意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「お腹が減っているだろう?」
「なんで……」

 どうして貴方がそんなことを知っているのか。いや、この時間まで残業をしていれば夕飯を食べていない可能性が高いわけだから、木島がそう言ったとしても不思議はない。

 だが、私の肩に手を置いているのはどういう了見か。

 振り払おうとしたのだが、今度は木島に手首を掴まれてしまった。
 相変わらずの強引さである。

 この強引さを片瀬さんにしていたら……また違った未来があったのかもしれないのに。

 片瀬さん相手にも、そしてあの藤沢課長相手にも色々と強引にことを進めようとしていなかったか。
 だからこそ、私たち営業事業部の面々は木島を敵扱いしたのだから。

 そんなことを頭の片隅で考えていると、木島はフッと表情を緩めた。

「久しぶりにアソコに行きたい」
「……」
「菊池女史とのご飯は、アソコだと決まっているしな」
「私は貴方とは行くつもりはなくてよ」

 掴まれた手首を強引に振り離そうとしたのだが、有無を言わさないといった感じの笑みを木島は浮かべた。

 どうしてこの男はこうも強引なのだろうか。私の意見も少しは聞いてほしいものだ。
 これが他の社員なら私に対してこんな態度はとらないし、まずは近づいてもこない。

 それなのに、なんなのだろうか。この男は。

 半年以上もこの会社に席を置いているのだから、私の批評も耳に入ってくるはず。
 私のことを苦手な女だと、可愛くない女だと認識しないのだろうか。

 全くもって不思議だ。不可解すぎる。
 そんな思いも込めて木島を冷たい視線で見つめたが、当の本人は痛くも痒くもない様子だ。
 
「大丈夫。俺、食べるの早くなったし。注文もできるし」

 そんなこと誰も聞いてもいないし、心配もしていない。とにかく離せ。
 全力阻止しようと訴えたが、私はそのまま会社近くにある“アソコ”に連行されたのだった。
 
 
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