意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
1 これがすべての始まりだった……。
「あら、浮かない顔ねぇ」
「放っておいてくれ」
誰もいない休憩室。項垂れて椅子に座っている男がいた。
私はその男に声をかけたが、邪険にされてしまった。
好きな女を奪われてしまったらガックリときても仕方がないだろう。
こんな態度であしらわれることは予想済み。この私を見くびるな。
失恋したての男を目の前にして、私は鞄を開いた。
つい最近耳にしたCM。耳に残るその奇妙なリズムを口ずさみ、鞄の中に入れた“あるもの”を探す。
そして見つけた“あるもの”を取り出し、目の前の男に差し出した。
「そういう時はクラシックよ! これプラチナチケットでしょ? これにかなりつぎ込んだでしょ?」
フフンと得意げに笑い、その男を見下ろした。
案の定、意気消沈している男は目を丸くして私を見上げている。
彼の失恋が確定したとき。この男はやけくそのように私にこのチケットを差し出してきた。
もう必要ありませんから、そう呟いた声は未だに耳に残っている。
どこか吹っ切れたような、だが何かに後ろ髪引かれているような。そんな曖昧で投げやりの態度だった。
その様子を見る限り、こういった運命になることを、かなり前からわかっていたのだろう。
海外事業部課長は私とのやりとりが面倒くさい様子だ。
早く自宅へ帰り、一人寂しく晩酌をしたいなんて思っているのかもしれない。
しかし、それは私が許さない。