意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
4 斜め上行くのは……?

「菊池さんは前回と同じでいい?」
「……」
「牛丼特盛三つ。汁ダク玉入り、味噌汁も二つ」
「ちょ、ちょっと!」

 畏まりました、という店員の明るい声を聞いて、私は木島に慌てて声をかけた。
 そんな私の様子を見て、木島は有無を言わせない態度でニッコリとほほ笑んで隣の席を指さした。

「こんな時間まで残業をしていたんだ。何も食べていないんだろう?」
「……」
「ほら、座って」

 木島に促されたが、何故か躊躇してしまう。そんなことをしている間に、ほかほかの牛丼特盛りが目の前に置かれた。

「牛丼は早く食べてなんぼ。さっさと食べて次の人に席を譲る、だったっけ?」
「っ」

 確かに木島の言うとおり。こうして目の前に牛丼が提供されたのだ。
 さっさと食べて席を譲らなければ。

 そうだ、牛丼には罪はない。食べ物は大事。

 私は木島の隣のスツールに渋々と腰をかけた。そうすると手際よく私の目の前に牛丼のどんぶり二つと、割り箸を置いてくれる。

「紅ショウガはどうする?」
「いる」

 そう言うと思った、と優しげな笑みを浮かべて、木島は私に紅ショウガが入った容器を手渡してきた。

 それを受け取ると、紅ショウガを小さなトングで掴み、牛丼の上に散らす。
 うん、この赤みがまた食欲を誘うのだ。

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