意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
いただきます、と合掌をしたあと、割り箸をパチンと豪快に割る。
そしてワシワシと牛丼に食らいついた。身体はやっぱり食べ物を欲していたようだ。
空腹で辛かった身体が、みるみる元気になっていく気がする。
お腹がすいていたから少しだけネガティブなことを考えてしまったのだろう。
仕事大好き、仕事命の私なのに、ちょっとだけ疲れたなんて思ってしまった。
だがしかし、こうして大好きな牛丼特盛り汁ダク玉入りを二杯ペロリと食べてしまえば、また明日から元気に仕事に打ち込むことができる。
嬉々として牛丼を平らげていく私に、木島はどんぶりを持ちながら楽しげに笑った。
「相変わらず、よく食べる」
「悪い? 私のエネルギー源なんだけど」
女子たるもの一人で牛丼屋に行き、特盛り牛丼を食べる強者はあまりいないかもしれない。
だが、好きな物は好きだし、今後も止めるつもりは到底ない。
モグモグと口を動かしながら木島を睨み付けると、彼は屈託なく声を上げて笑った。
「いや、見ていて気持ちがいい」
「そうかしら?」
「ああ、この細い身体のどこに入っていくんだろうな。この特盛り牛丼二杯分は」
「どこって胃の中でしょう?」
「確かに」
木島はずっと笑いっぱなしである。そんなに私の発言がおかしかっただろうか。
ごくごく普通の意見を言ったまでなのに。
だって違うところにはいってしまったら、それはそれで大問題である。
ちなみに私の別腹は甘い物ではない。牛丼だと言ったら……さすがに隣の男は目を丸くするだろうか。
楽しくなって思わず声を出して笑うと、木島は身体を乗り出してきた。