意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「何? なにか楽しいことでもあった?」
「べ、別に」
慌てて笑いをかみ殺し、お水を飲む。しかし、慌てている様子がわかってしまったのだろう。
木島は食べ終えた牛丼のどんぶりを横に避けた後、テーブルに肘をつき、私の顔をジッと見つめてきた。
「本当、見ていて飽きない」
「は……?」
「菊池さん、周りの人に面白い人だって言われたことないか?」
「別に?」
面白い人とは言われないが、変わっているとは毎度言われることだ。
そのたびに「私のどこが変わっているのかしら?」と首を傾げている。
この男に聞けば、その理由がわかるのだろうか。
思い切って聞いてみたのだが、木島はクスクスとおかしそうに笑うのみ。これでは解決しないじゃないか。
全く人をバカにするのもほどがあるというものだ。
この男は失恋でくたばっていたはず。それなのに元気になったのは、彼がポジティブな思考の持ち主だったからなのだろう。
失恋で落ち込んでいるよりは、楽しく生活をしていたほうがいい。それは私も同意見である。
だがしかし、私を巻き込むのだけは止めてほしいものだ。
クラシックコンサートに行って以来、どうも懐かれてしまった感が否めない。
そう、懐かれた。この言葉がシックリくる。
「海外事業部課長さん」
名前も名字もしっかり頭の中に入っているが、あえて私はこう呼ぶ。
それは彼に限ってではない。役付の人間には誰しも私はこう呼ぶようにしている。
誰もそのことについて苦言をしてきたことはないが、目の前の男はどこか不服そうだ。
小さく息を吐き出したあと、彼は私の顔をジッと見つめてきた。