意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「人質ならぬ、モノ質かな」
「ちょ、ちょっと! 返しなさいよ」
木島が今、手にしているのは最近買ったばかりのボールペンだ。
それもちょっと値が張ったモノ。さすがに返してもらいたい。
手を差し出した私に、木島は意地悪に笑う。
「早く仕事に行けだとか、昼を一緒に食おうって言っているのに断るとか。菊池さんが俺につれないから意地悪してやる」
なんという子供っぽい発想だ。あり得ない。
慌てて立ち上がろうとしたが、そんなときに限って目の前の電話が鳴る。
電話と木島。今、間違いなく優先しなくてはならないのは電話だ。
「ほら、電話が鳴っている。仕事しなくちゃ」
「わ、わかっているわよ!」
「これはお昼まで預かっておく。一階ロビーで待っているから」
言いたいことだけ言うと、木島は営業事業部を出て行ってしまった。
その後ろ姿を見て歯ぎしりをしたが、すぐに我に返り電話に出る。
「はい。営業事業部、菊池です」
心の中で木島に罵倒しながら、私は渋々と仕事に励むのだった。