意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
それでは、とさっさと会社を後にしようとする彼の行く手を阻んだ。
そして、わざとニヤリと笑ってやる。
私の意味ありげな笑みに恐れをなしたのか。彼は椅子に座りなおし、あ然として私を見上げていた。
私はフンと鼻を鳴らしたあと、腰を屈める。
急に視線が近くになり、彼は及び腰だ。
私はもう一度鼻を鳴らした。
「何言っているのよ? 海外事業部の課長さん。あなたも行くに決まっているでしょ? 出資者よ? 行かないでどうするの!」
「いや、俺は遠慮するよ。君だけで行けばいい。もしよかったら、このチケットもあげるから他の人を誘って」
もう一枚のチケットを彼に差し出されたが突っ返した。そして大きくため息をつくのも忘れない。
私はわざとらしく肩を竦めて見せた。
「あなたがこのチケットをどんな思いで買ったのかはなんとなくわかるけど。クラシックに罪はないわ」
「はぁ……」
「失恋がなんぼのもんじゃ、よ! さ、心を綺麗さっぱり洗いに行くわよ!」
そう宣言をし、彼の手にあったスマホを取り上げ、再びニヤリと笑った。