意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「今日も可愛いね、麻友ちゃんは。君は可愛らしいんだから、パステルカラーのスーツとか着てみれば?」
「いえ、私は営業ですので。グレーのパンツスーツで充分かと」
きっぱりすっぱり言い切ったのだが、田中はまだまだ勘違いを続けていく。
「良かったら今度俺が見立ててあげるよ」
「は……?」
「君に似合う服を買ってあげる。行きつけのブティックに連絡しておくからさ。今日の夜なんてどう?」
「いえ、結構です。それに私は仕事がありますので」
一応常務の息子。ぶん殴る訳にもいかず、怒りをグッと抑える。
そんな私の気持ちなど微塵も感じていない田中は、私に近づき厭らしく笑う。
「仕事なんて誰かに押しつけておけばいいよ。君ができないのなら俺が言っておいてあげようか?」
「は……?」
開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろう。
この男、心底見損なった。社会人何年目の発言か。
仕事をなんだと思っているのか。この男だって給料をもらっているはずだ。
それなのに仕事もせずフラフラと意味のないことばかりをして、勘違いな行動ばかりをしている。
もし私が社長なら、こんな男に給料なんて一円も支払いたくない。
眉を寄せ、嫌悪感をむきだしの私に、田中はまだ話を続けるらしい。
「麻友ちゃんは責任感が強いからなぁ。うちの親父も君のこと褒めていたんだよね」
「……」
それはありがたい。だが、常務。私のことを褒める前に、自分のご子息を一から教育をし直した方がいいと思います。
心の中で突っ込みを入れていると、田中はとんでもないことを言い出した。