意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「で、今度の週末にさ。うちにおいでよ、麻友ちゃん」
「は……なんで」
思わず素に戻り呟いたことに気が付かず、田中は目を輝かせて話を続ける。
「親父と母さんに君を紹介したいからだよ」
「……」
それこそ“なんで?”だ。どうして私が田中常務の自宅へ行き、常務とその奥さんに紹介されなければならないのか。
話があるなら会社でことが足りるはず。首を傾げる私に、田中は「やっぱり麻友ちゃんは可愛いよね」と笑う。
ますますよくわからない。ポカンと口を開けたままの私に、田中は満面の笑みで言い切った。
「君をお嫁さんにもらいたいと思っているからだよ」
「……」
「土曜日、時間取れるよね? そろそろ君も俺に靡いてくれているだろうし」
どこでどうなってそんな勘違いができるのだろうか。
あまりにおめでたい頭の田中に、言葉が出てこない。
ここは罵倒していいだろうか。いや、したい。したほうがいい。
そうは思うのだが、腐っても常務の息子。
悲しいかな一会社員として、権力や上司に楯突けない。
なんでも常務はこのバカ息子のことを溺愛しているという噂である。
もし、彼を会社でぶん殴ったとしたら……首が飛ぶであろう。
そうしたらこの会社で働けなくなる。