意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
今までだって遠回しに断ってきたのだ。それなのに田中には通用していない様子。
日本語で通じなければ、英語なら通じるわけ?
それとも中国語? ハングル? どの言語でもいいから、誰かヤツを説得してほしい。
このまま権力に負けていたら、私はこの田中の嫁になるというのか。
(イヤだ。絶対にそれだけはノーサンキューだわ。私は結婚はしない。仕事に生きるって決めているのよ!)
それも相手は社会人として恥ずかしいほど常識が通用しない坊ちゃんだ。
絶対にイヤである。
これは首をかけ、このバカ男を諭さなければならない時がきたようだ。
ある意味覚悟を決め、口を開きかけた。そのときだった――――
誰かに強引に肩を引き寄せられた。
慌ててその人物を確認して、思わずホッと胸を撫で下ろした。木島だった。
彼は私の前に立ちはだかり、田中との距離を離してくれた。
木島は私を振り返ってフッと優しげに瞳を細めたあと、彼は前を向き田中を見た。
「田中さん、常務がお呼びでしたよ? 早く行かれないとまずくないですか?」
「煩いヤツだな。俺が誰だかわかっているのか?」
木島の登場に眉を顰めた田中は、威張り散らすように、顎をしゃくり上げている。
その横暴な態度を見て、私は口を曲げた。
しかし、木島はどこ吹く風で相変わらずの爽やかな笑顔をしている。
「わかっていますよ? 庶務課の課長さんですよね」
その通りだが、問題はそこではない。田中は仕事の能力ややる気はないが、なんといっても常務の息子だ。
そのことはさすがに目の前にいる木島も分かっているだろう。
分かっていてあえてわざと言っているのだろうか。
木島の次の行動はどうなるのかとドキドキしながら、私は彼の背後で様子を見守る。