意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「そういう意味じゃない。俺はこの会社、沢コーポレーションの常務の息子だってことだ!」
「それも存じておりますが」
「そんな態度を取ってもいいのか!?」
「どういう態度でしょうか?」
威圧的な態度で田中を追い詰める木島。その清々しいまでの態度に思わず魅入ってしまった。
始めは偉そうにふんぞり返っていた田中だったが、木島を前にしてある意味の敗北を感じたのだろう。
「フン、まあいい。麻友ちゃん、また」
私に向かって引き攣った笑みを浮かべたあと、田中は負け犬の遠吠えをしたあと逃げてしまった。
その後ろ姿を見送り、木島は私を振り返ると、いつもどおりのいけ好かない笑みを浮かべた。
「さて、メシ食べに行こうか」
何事もなかったような態度に、私は呆気にとられてしまう。
ポケッと口を開いて木島を見上げる私を見て、彼はクスクスと笑いだした。
「何? 菊池さん。顔が面白いことになっているよ?」
「失敬な! それより、いいの?」
「なにが?」
さて、どこに食べに行こうか。と田中とのやりとりのことなど気にも留めていない様子である。
私は田中が去っていたエレベーターを指差した。
「海外事業部課長さん。あんなことしてもいいわけ? あの男、常務の息子よ?」
「知っている。親のすねをかじっている能なしの男だってこともな」
そこまでわかっていて、どうしてあんな態度を取ったのか。理解に苦しむ。
万が一、田中が逆恨みして、ありもしなかったことを常務の耳に入れたとしたら―――
このエリートさまもただでは済まないだろう。
私はヤキモキして、木島のスーツの袖を掴んだ。