意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
案の定、家から飛び出した私に連絡を寄越してくる相手は激減した。
だが、それでいい。繋がっていたいと思う相手は、すべてスマホのアドレスにある。
そんな私だから、特に仕事関連の人間とは連絡先を知らせる必要性はないと考えている。
会社で会えばことが足りるのだから、あえて連絡先を交換する必要はないだろう。
会社の人たちとオフで会うことは、今までも、そしてこれからも皆無なのだから。
洒落っ気もなく、色気もない。仕事命の堅物お局様。
そう思ってくれればいいと思っている。
無視を決め込むことにしたのだが、木島の囁きに身体が硬直してしまった。
「俺の個人情報、菊池さんは持っているよね。それってフェアじゃないよな」
「はぁ? それは貴方が無理矢理置いていっただけでしょ?」
午前中に無理矢理押しつけてきた名刺のことを言っているのだろう。
彼の名刺は会社で配布されたもので、その裏にはNYでの住まいの住所、日本滞在中の住所、そして携帯の電話番号とアドレスが手書きで書かれてあった。
さすがに捨てるのも気が引けると思い、デスクの引き出しの中にしまってある。
だが、元はと言えば木島本人が無理矢理押しつけてきたものだ。
それなのに、フェアじゃないなんて言われる筋合いはない。