意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)

 いつまでもこんなところで木島と言い合いをしていたら、後輩たちがまた何を言い出すかわからない。
 今もニヤニヤと私と木島のやりとりを見て楽しげに傍観しているのだから。

 なにしろ営業事業部の面々――― 今では課長である藤沢まで ――― は木島に友好的である。

 私が頑なに連絡先を教えずにいれば、「菊池主任、木島さんに冷たい」などと言われることは目に見えている。

 今、席を外しているが、新人の茅野さんに見つかったら「主任、教えてあげたらいかがですか~」などと間延びした声で悪びれもせず言ってくるに違いないのだ。

 盛大にため息をついたあと、木島を見つめる。
 どこか必死な様子の木島に首を傾げたあと、スーツのジャケットに忍ばせていた名刺を取り出す。

 そして、そこに携帯番号とアドレスをボールペンで書き込み、木島に差し出した。

「え?」

 驚いて目を丸くする木島に、名刺を押しつける。

「いらないの?」

 あえてぶっきらぼうに言う私は、きっと可愛げもないことだろう。
 そんなことは言われ慣れているし、自分でもよくわかっている。みなまで言うな。

 ツンとそっぽを向く私に、木島は「ありがとう」と噛みしめるように呟く。

 我に返った私は羞恥心を覚え、早口でまくし立てた。

「言っておくけど、電話には出ないし、返事もしないから」
「また、そういう冷たいことを言う」
「それが不満なら返して」

 木島に手を差し出すと、彼はプッと噴き出したあと、私があげた名刺をジャケットのポケットに忍ばせた。

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