意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「もらったモノは返さないさ」
「あっ、そう」
木島から顔を背け、仕事に入ろうとしたのだが、それを木島が止めてきた。
私の肩を掴み、彼は強引に自らの方を向かせたのだ。
驚いて硬直する私の耳元で、木島は小さく呟く。
「また連絡する。ありがとう」
それだけ呟くと彼は私の身体を放し、その場を後にした。
あ然とする私は、彼の背中をずっと見送ることしかできなかった。
木島のペースにまんまと嵌まってしまった感が否めない。地団駄を踏みたいところだが、あいにく仕事は待ってはくれない。デスクの電話が私を呼んだ。
そんなこんなで一日を過ごし、会社を出た頃判明した。
木島はすでに機上の人となったようだ。全く忙しい男である。
それはすべて彼からのメールで知った情報。早速私の携帯にメールを寄越してきたのだ。
しかし、毎日私の良心に訴えかけるようなメールを寄越してくるのはいただけない。
初めはメールが来ても返すつもりは微塵も無かった。
木島が電話をしてきても出ないし、メールを寄越してきても返事はしないと言っておいたのだから、返事をしなくても問題ないだろうと思う。