意地悪上司に求愛されています。（原題 レア系女史の恋愛図鑑）

「それにしても……マメな人ね」

　こんなにこまめに連絡をする木島なのに、昔付き合っていた彼女には仕事の忙しさにかまけて連絡せず、振られたという過去があるだなんて……よほど官僚の仕事に忙殺されていたのだろう。

（そうか、そのことがきっかけで木島はこまめに連絡をするようになったのか！）

　いや、でも待て待て。私は木島の彼女でもなければ、家族でもない。友人でもないだろう。
　同じ会社に勤めているとはいえ、仕事の上では接点は皆無である。

　となると、私と木島の関係はなんと表現をしたら良いのか。
　同僚、という間柄と言えばいいだろうか。しかし、彼は課は違えど上司である。

　同僚という表現は適切ではないかもしれない。いやいや、同じ会社に勤めているのだから同僚というのでも間違いではないのかしら……？
　
「ああ、なんでもいいわ。送信っと」
　

　いつも通り短いメールを打ち込んで、NYにいる木島に送信をする。
　内容は、今日は早めに帰ってきたということと、仕事頑張れという簡素な文面だ。
　すると、すぐさま彼から返事がやってきた。

　―――　早く家に帰ってきたようだな。偉い、偉い。ゆっくり休んで、明日からも天下の菊池女史で頑張れ　―――

「天下の菊池女史って何よ」

　携帯に向かって悪態をついていると、電子レンジからピーピーという電子音が聞こえた。
　お弁当が温まったのだろう。
　
「さぁて、ご飯、ご飯！」

　携帯をソファーに置き、私はいそいそとキッチンへと向かう。

　足取り軽やかなのは、木島からメールが来たからじゃない。
　待ちに待った夕飯だからだ。
　誰もいないのに言い訳をしながら、私は電子レンジからお弁当を取り出した。