意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
仕事人間で堅物。そんなイメージが強い私には、お堅いファッションがお似合いである。
それに素顔の私はとても童顔である。もし、ナチュラルメイクをして取引先会社に出向こうものなら、舐められてしまうことは目に見えている。
ビジネス仕様の格好は、いわば私にとっての鎧みたいなものだ。
だけど、会社から1歩外へ出れば「お堅い仕事人間、菊池女史」の鎧を脱ぐことができるはす。
今日はオレンジ系のリップを塗り、チークも明るめの色を付けている。
髪も下ろしているし、服装にいたっては膝丈のフレアスカートだ。
マスタード色のスカートは、秋のこの時期にピッタリだと思う。
足元はショート丈のブーツ。ザ、女の子。そんな装いだ。
(ふふ、こんな格好。後輩たちが見たら何と言うかしら?)
想像したらおかしくて、思わず噴き出しそうになる。
足取り軽くモール内を当てもなくフラフラと見て回っていると、大型書店の前までやってきていた。
たまにはファッション雑誌でも買っていこうか。そんなふうに思い、1歩を踏み出した時だった。
背後から私の名前を呼ぶ声がした。その声に覚えがあり、私は振り返る事を躊躇する。
ピタリと動きを止めた私に、再度その人物は声をかけてきた。
「麻友ちゃんだよね? 奇遇だな」
「……」