意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「そうかそうか。俺がアドバイスしたから」
「いや、それは違います」
慌てて訂正する私の言葉など耳にも入れず、田中はますます嬉しそうに笑う。
「麻友ちゃん、照れなくていいよ。君がツンデレだってこと、もう俺はわかっているし」
「え? いや、ち、ちが」
取り乱す私に、田中の母親だと思われる女性がニッコリとほほ笑んだ。
「貴女が菊池麻友さんね。私、義彦の母です。いつも息子がお世話になっているわね」
「初めまして、菊池です」
別にお世話などしてないです、と本音が顔を出しそうになったが、慌てて口を噤み、最低限の礼儀を見せる。
しかし、この田中親子。どこでどう勘違いをしたのか。
私を見て、ニコニコと楽しげにとんでもないことを言い出した。
「母さん。俺が言っていたとおり、可愛い女性だろ? 彼女、俺に夢中なんだよ」
「おほほ、そのようね。これは早く進めなくては」
事実無根なことばかりを言われ、あげく母親の方は何か理解不能なことを言い出していないか。
呆気にとられている私を、田中母は隅から隅まで見つめている。
その視線はどこか不躾で、常務の奥さんだとわかっていても不快感をあらわにしてしまった。
眉を顰める私に、田中母はオホホと声高く笑う。
大きく頷いて私をジッと見つめているが、その視線は満足げであるのは私の気のせいだろうか。
不審に思いながら田中親子を交互に見ていると、田中母は突然「いつがいいかしら?」と意味不明なことを言い出した。