意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「えっと、何のことでしょうか?」
「あら、麻友さん。決まっているでしょう? 結納よ、結納」
「結納って……誰と誰がですか?」
嫌な予感しかしない。この流れでいくと、どうやら私に関係しているのでは……
逃げ腰の私に対し、田中親子は相変わらず自己中心的に話を進めていく。
「うちの義彦と麻友さんのに決まっているでしょう?」
「ちょっと待ってください! 私、田中さんとはそういう関係では」
何か勘違いされていませんか、と抗議をした私に対し、田中が話の中に入ってくる。
「母さん、それは先走りすぎだよ」
「あら、そうなの? 義彦。貴方の話を聞く限り、麻友さんとお付き合いしているのかとばかり……」
おいおい、いつ田中と付き合い出したというのか。頭が痛くなってきた。
こめかみに手を置いて小さく息を吐き出していると、田中はとんでもないことを言い出す。
「まずはお見合いして、お互い色々知っていかなくちゃ。もちろん結婚前提ってことでね」
「まぁ、そうね。それがいいわね」
全然良くない。なにがいいというのか。
私は慌てて「ちょっと待ってください!」と彼らの間に入り、話を止めようとしたのだが、田中母の言葉によって、次の言葉が告げられなくなってしまった。
「麻友さんのご両親とは、あらかたお話がついているけど……そうねぇ、顔見せの場というのも持たなくてはね」
「……」
固まり続ける私を余所に、田中親子の話は一層盛り上がっていく。