意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「思いたったが吉日と言うし、今日帰ったら菊池さんに電話をして話を煮詰めていかないとね」
「ああ、それがいいよ、母さん。麻友ちゃんは恥ずかしがっているだけで本当は嬉しいはずだし」
これだけ勘違いできれば、あっぱれと言うしかない。
それよりもっと気になるのは、田中が菊池家に面識があるということ。
どうしてそんなところまで話が進んでいるのか。目の前の二人に聞いてみたいが、余計なことを言えば話がややこしいことになりそうだ。
早急に実家に連絡をし、今の状況を把握することが先決だろう。
とにかくこの場から、そして田中親子から遠ざかりたい。
そう思った私は、田中親子に頭を下げ、口から出任せを言う。
「スミマセン。今から友人と待ち合わせておりますので」
「あら、引き留めて悪かったわね、麻友さん。では、次回お会いするときは見合いの席かしら?」
「……そ、それはちょっと」
やんわりと拒否の姿勢を見せたのだが、田中親子はさすがだ。
私の態度、表情を見れば、この話に難色を示しているということぐらい分かるものだと思う。
しかし、彼らは再びとんでもないことを口走りだした。
「ああ、そうだよ。その前に俺と二人きりで食事にでも行こう」
「はぁ!?」
驚いてそれ以上言葉を出せない私に、田中はご機嫌に笑う。
「では、また改めて日時を決めよう、麻友ちゃん」
それだけ言うと、田中親子はその場から去って行った。