意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)

「思いたったが吉日と言うし、今日帰ったら菊池さんに電話をして話を煮詰めていかないとね」
「ああ、それがいいよ、母さん。麻友ちゃんは恥ずかしがっているだけで本当は嬉しいはずだし」

 これだけ勘違いできれば、あっぱれと言うしかない。

 それよりもっと気になるのは、田中が菊池家に面識があるということ。
 どうしてそんなところまで話が進んでいるのか。目の前の二人に聞いてみたいが、余計なことを言えば話がややこしいことになりそうだ。

 早急に実家に連絡をし、今の状況を把握することが先決だろう。
 とにかくこの場から、そして田中親子から遠ざかりたい。

 そう思った私は、田中親子に頭を下げ、口から出任せを言う。

「スミマセン。今から友人と待ち合わせておりますので」
「あら、引き留めて悪かったわね、麻友さん。では、次回お会いするときは見合いの席かしら?」
「……そ、それはちょっと」
 
 やんわりと拒否の姿勢を見せたのだが、田中親子はさすがだ。
 私の態度、表情を見れば、この話に難色を示しているということぐらい分かるものだと思う。

 しかし、彼らは再びとんでもないことを口走りだした。

「ああ、そうだよ。その前に俺と二人きりで食事にでも行こう」
「はぁ!?」

 驚いてそれ以上言葉を出せない私に、田中はご機嫌に笑う。

「では、また改めて日時を決めよう、麻友ちゃん」

 それだけ言うと、田中親子はその場から去って行った。
 
< 49 / 131 >

この作品をシェア

pagetop