意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「ちょっと待ってよ。一体何がどうなっているのよ?」
田中の勘違いと妄想はいつものことだと思っていた。適当にあしらっておけば大丈夫かとも思っていたし、何より先日木島が蹴散らしてくれたことにより諦めてくれたかと思っていた。
それなのに……ますます拗れているように感じるのは私だけだろうか。
頭が痛い。だが、このまま放置しておくには内容が酷すぎる。
田中の勘違いも大問題ではあるが、一番の問題は菊池家の話題が出てきたことだ。
それも田中家と菊池家はどうやら面識があるようである。
「タイムリミットだと言いたいのかしら」
私が家を出ると宣言をしたときに、父から言われていたことがある。
三十までは好きにしていていい。だが、そのあとは家のことを考えろ。そんな一方的なことを言われていた。もちろん、そんな父の言葉で素直に頷く私ではない。
やっと菊池家から飛び出すことができたのだから、再び父の支配下に戻ろうだなんて思うわけがないだろう。
私は三十三歳。三十歳はとうに過ぎた。
この三年、特に実家から何も言われることがなかったため、油断していたのは否めない。
「オフを満喫どころじゃなくなったわね」
大きく息を吐き出し、私は帰路へと着いたのだった。