意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
9 犬猿の仲
「お久しぶりです、お父さん」
『麻友か?』
電話の向こうから懐かしい声が聞こえた。
だが、できれば聞きたくなかった声でもある。私はギュッとスマホを握りしめた。
ショッピングモールで田中親子に出くわせ、とんでもない情報を掴んだ私は、何も買うことなく、そのままマンションに戻ってきた。
あの不安定な心理状態でウィンドウショッピングをするほど、肝は据わってはいない。
マンションに戻ってきてすぐさましたことといえば、実家に電話をかけることだった。
大学を卒業し、沢コーポレーションに入社して以来、実家に戻ってはいない。
こうして父に電話をするのも、かなり久しぶりである。
前に電話をしたのは、いつだっただろうか。思い出せないほど昔であることは間違いない。
そうそう、何年か前に見合い写真が山ほど送られてきたときに抗議の電話をしたのが最後かもしれない。
とにかく父は私にとって鬼門である。それは、父も同じことを思っているはずだ。
小さい頃から何かとたてをつき、思い通りにならない娘。そんなふうに考えていることだろう。
私には姉が一人いる。容姿端麗で、頭もすごくいい。とにかく自慢ができる姉である。
もちろん、父は姉を溺愛している。それは当然のことだろう。
その姉は父の言うことに逆らうことなく、父が勧めるがままの人生を送っているからだ。
昨年、姉は父の地盤を引き継ぎ、県議会議員に立候補。そして見事当選。
美人県議会議員と誉れ高い姉である。