意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
しかし、その一方。同じ血が流れているはずの私は、父の言うとおりに生きてきたためしがない。
父が勧めてきたところではない学校や大学に進学し、「家事見習いをし、ほどよきときに見合いをして身を固めろ」という、今時あり得ないほど時代錯誤な考えを持つ父を蹴散らし、私は沢コーポレーションに入社した。
このときもかなり激しい親子喧嘩を繰り広げた。両者1歩も引かない状態に、姉は呆れかえったように言い放った。
「麻友。もし沢コーポレーションを辞めるようなことがあったら、そのときは実家に戻ってくること。そしてお父さんの言うことを聞く。それでいいわね」
鶴の一声で私の未来は決まった。もちろん父は最後まで難色を示したが、溺愛している姉には弱いのだ。
渋々だが、姉の意見に頷いてくれた。
そんな姉は私にとって救世主である。あの堅苦しい家の中で、唯一の理解者だと言ってもいいだろう。
父との激闘から十年以上が経とうとしているが、未だ私は沢コーポレーションに勤続している。当初の約束はきっちりと守っているはずだ。
それなのに私の知らぬところで見合い話が進んでいるとなれば、異議を唱えなければならないだろう。
とりあえずは父の出方を見てからだ。私はずばり本題を出さず、それとなく話題を振ることにする。
「お父さん。近頃、田中さんという方から何かお話を伺ってはいませんか?」
私がそう切り出すと、電話の向こうで息をのむ音がした。