意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
やはり、父は私に黙って何かをしようとしているのだろう。
相変わらずの父の行動にため息しか出てこない。
どうして私が菊池の家を飛び出したのか。その辺りのことを全然わかっていないようだ。
堅物な父は未だに私を菊池家に戻し、所謂花嫁修業をさせたがっているらしい。
それは時折連絡をくれる姉情報なのだが、まだ父が諦めていないのかと愕然としてしまう。
仕事が忙しい姉は結婚を視野に入れてはいないようだし、父も無理強いをする様子はない。
となれば、あとは妹である私に地元の権力者の息子辺りと結婚をさせ、確固たる縁者を作ることで姉の政治活動を強固なものにしようと考えているのだろう。
ようするに私は政治活動の犠牲者となり、生け贄になれということだ。
そんな未来が来ることがわかっていたからこそ、私は家を飛び出したのだ。
父は私のことを都合のいい、政治活動の駒だと思っているのだろう。
だからこそ父の意見に反し、私は就職をしてバリバリ仕事をしている。
それをどうしてわかってくれないのだろう。そう言って罵倒しようかと思ったが、言っても無駄なことぐらいわかっている。
なんとも言えぬ親子関係とはいえ、長い付き合いだ。相手の腹の内など見えている。
「私は今も尚、沢コーポレーションで働いております」
『……』
「約束では、私が沢コーポレーションを辞めることにならない限り、家に戻ることも、花嫁修業をすることも、そしてお父さんが勧める縁談にも応じなくてよい。そういうことじゃなかったでしょうか?」