意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
10 菊池女史の噂

「菊池さーん!」
「茅野さん。いつも言っているけど、語尾は伸ばさない」

 すみませーん、と私が注意したというのに、未だに語尾を伸ばす彼女。
 語尾が伸びるのはいつものことだが、彼女の慌てぶりを不思議に思う。一体どうしたというのか。

 また、何かミスってしまったのだろうか。それとも理解できない仕事を振り分けられたのか。
 昨日の営業報告などを午前中までに上司に提出しなければならないのだが、まだ出来上がっていない。
 先ほどまでずっと会議をしていたのだから仕方がないのだが……

 それは理由にはならないだろう。小さく息を吐き出してパソコンに向かっていたのだが、どうやらトラブルが舞い込んだ様子だ。

 キーを叩く手を止め、私は椅子を反転させた。

「で、どうしたのかしら。なにかトラブル? 仕事でわからないことでもあったかしら?」

 彼女が営業事業部に配属されてから半年が経ち、わからないなりにも食らいついてきている。
 さて、一体どうしたのだろう。

 小首を傾げる私に、彼女は目をキラキラさせて、その場で飛び上がった。

 喜んでいるのだとは思う。だがしかし、何に喜んでいるのか。皆目見当がつかない。
 怪訝な顔をして彼女を見つめていると、やっと茅野さんは口を開いた。

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