意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)

 あの日にしつこく木島に連絡先を聞かれたのだが、助けてくれたという借りがあったからつい私の連絡先を教えてしまったのだ。
 会社の誰にも個人携帯の電話番号やメールアドレスなんて教えていないのに……

 もっとも課の後輩たちから「そろそろ教えてあげればいいのに」と批難めいた目で見られてしまったというのもあるのだけど。

 それからはNYと日本の一日一回ほどの定期通信を送るようになった。
 送るようになったとはいえ、私が率先だって木島にメールを送ったことはない。

 いつも木島から。彼からのメールに短い返信をする。そんな感じで、このひと月毎日メールのやりとりをしていた。

 このことを営業事業部の面々が知ったら……きっと驚くだろう。

 毎日メールでのやりとりをしていたので、木島がこのひと月どんなふうに暮らしていたのか。仕事をしていたのか。なんとなくだが脳裏に描くことができる。

 と、言っても。どうしたって面と向かって顔を合わせたわけでもないし、近くで仕事ぶりをみていたわけではないから、わからないことばかりだとは思うけど。
 それでも一日一回のメールのやりとりで、木島とは久しぶりに会ったという気がしないのだ。

 木島に言うと、彼は爽やかに笑った。

「菊池女史、それは俺の思うつぼってヤツだな」

 NYと日本。物理的には、かなり遠く離れている。だけど、文明の利器でこうして繋がることができる。それを使わない手はない。

 木島はそう力説したが、私は軽くあしらった。

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