意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
モテる男の口説き文句は恋愛に疎く、するつもりもない私でも聞いたことがある。
いや、口説き文句ではないか。戯れ言だ。格好つけだ。
とにかくサラリと流すに限るだろう。私は素知らぬ顔をして牛丼を頬張る。
横の男は牛丼屋にも慣れた様子で、さっさと自分の分を食べ終え、水を飲んでいる。
その姿でさえ、スマートに振る舞って見えるのだから、カッコいい男というのはズルイ。
私にとって木島という男は神出鬼没だ。
彼は通常NYという地にいるため、本当に行動が読めない。突然私の目の前に現れ、ちょっかいをだしていくのだ。
彼は暇人なのかと疑いたくなる。
だが、海外事業部課長ともなれば、かなり忙しいはず。それなのに、どうして私の前に現れるのだろう。不思議である。
「メールを読む限り仕事が忙しいように感じていたけど、海外事業部課長さんは暇なのかしら?」
「……また戻っている」
「はぁ?」
訳が分からず眉を顰めていると、木島は私の顔を覗き込んできた。
突然の至近距離に、思わず身体がビクリと反応してしまう。
私の慌てぶりを見て、木島はどこか嬉しそうに笑みを浮かべた。だが、すぐにムスッと機嫌が悪くなった。