意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「大丈夫。そんなに心配しなくても。まだ取って食いはしないから」
「っ!」
まだってどういうことだ、まだって。
木島を睨み付ける私に、彼は肩を竦めて困ったように笑った。
「とにかく座って。座ってくれないと話したいことも話せない」
「……」
未だに渋る私に、木島は真剣な顔をして軽く手を挙げた。
「誓う。今日、この場で君には指一本触れない」
「……」
「これなら、どう?」
誓ってくれるならそれでいい。警戒を解いてソファーに座る私に、木島は複雑な表情を浮かべた。
「菊池さん」
「なんでしょう? 木島さん」
「名前で呼んでくれるのはとても嬉しいし、俺のことを信用してくれたことは素直に嬉しい。だけど警戒を解くのが早すぎるな」
「はぁ?」
木島が手を出さないと誓ったから、言われるままにソファーに座ったのである。
そんなふうに言われることには納得がいかない。
顔を渋くさせた私を見て、木島はどこか甘い笑みを浮かべた。
思わずこちらがドギマギしてしまうほど、魅惑的な笑みである。
「俺以外の男に今みたいに言われたとしても、すぐに逃げるんだぞ」
「?」
全くもって意味不明である。頭の中にいくつも疑問符が浮かんでいる私に、木島は急に真面目な顔をした。
「なぜ、俺がホテルに菊池さんを連れ込んだのか。理由はわかるか?」
「わからないから戸惑っているんでしょう? さっさと説明してくださらない?」
正直、心中穏やかではない。異性と二人きりでの密室。それもどうしてこの場に連れ込まれたのか理由を聞いていない状態だ。
心が落ち着かなくても仕方がないだろう。
私は、冷静を装いつつ、目の前の男に説明を急がせた。