意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
2 ワーカーホリックと恋愛情熱家

「はぁ。こんな感じかしら」

 誰もいないオフィスに私の呟きだけが響く。

 そのことにどうしてか寂しさを感じる。今までこんなふうに感じたことはなかったのに……

 今、営業事業部のオフィスには私ひとりだけだ。
 自分のデスクの上にだけ蛍光灯をつけ、その下で一心不乱にデータを打ち込んでいたが、なんだかむなしくなって手を止めた。

 かけていた眼鏡を外してデスクに置いて目頭を軽く押したあと、背もたれに疲れきった身体を投げ出す。
 ふと窓の外を見れば、すっかり闇も濃くなっていた。

 考えみればすでに夜の九時。オフィスが静かなのも頷ける。
 どうやら仕事に集中しすぎて時間が過ぎるのを忘れていたようだ。いつものことながら、相変わらずの仕事人間に苦笑してしまう。

(私には仕事しかないわけだし。それにこれからも仕事だけに生きていくのよ。気合い入れなくてどうするの!)

 小さく息を吐き出した。だけど、その吐息でさえ誰にも見せるわけにはいかない。

 完璧主義者であることが菊池麻友なのである。そう、私は完全なワーカーホリックなのだ。
 そんなことを言いつつ、仕事が楽しくて仕方がないので苦労を感じたことはないのだけど。

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