意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「箝口令が敷かれているのに、貴方は漏らしていいのかしら?」
藤沢にそう聞くと、ニヒルな笑みを浮かべた。
「権力というものには、時として逆らうもの。そして部下は守るもの。それが俺の神髄だ」
ということらしいが……。
だが、次の瞬間。とある仮説が頭を過ぎる。もしかして、彼の仕業かもしれない。
「ねぇ、もしかして……」
私の表情を見て、木島はフッと優しげにほほ笑んだあと「たぶん菊池さんの予想が正しいよ」と言う。
「権力というものには、時として逆らうもの。そして部下は守るもの。だったかな?」
「……」
「君の上司は、とても部下思いらしい。かつてのライバルに塩を送るぐらいだから」
「それは違うと思うわ。自分の愛する妻を狙うかもしれない輩を排除するためじゃないかしら?」
あの藤沢のことだ。一理あると思う。木島にそう訴えると、クスクスとさもおかしそうに笑う。
「俺は、あの男の脅威ではないはずだし。俺の気持ちが今、どこにあるかぐらいわかっているさ」
「っ!」
「ねぇ、菊池さん。わかっていないのは一人だけだと思わないかい?」
「……何のことだか、私にはさっぱり理解できないわ」
「君ならそうあしらうと思っていた。でも、そういう君も好きだけどね」
甘い言葉に絶句する私に、木島は私に顔を近づけてきた。
驚いて肩を振るわせてしまう。
「そんなに警戒しないでほしいんだけど」
「それは無理なお願いね。こんなふうに男と二人きりで密室にいるだなんてシチュエーション、今までに体験したことがないのだし。それより私はさっさと帰りたいのだけど」
「それは光栄だ。俺が記念すべき第一号というヤツだ」
何が光栄なものか。私はさっさと帰りたいと訴えているのに。
歯ぎしりをする私に、木島はフッと優しい笑みを引っ込め、真剣な眼差しで私を至近距離に捕らえた。