意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)

「俺は今から、君の恋人だから」
「……」

 木島の言っている意味がさっぱりわからない。どこでどうなって私は木島の恋人になったというのか。
 からかいなのか、冗談なのかわからないが、何度か私に好意を寄せているということを言ってきたことはある。

 だが、私はそれを承諾もしていないし、私の気持ちは恋とは無縁の場所にある。
 それに過去も未来も恋愛をすることもなく過ごすことはとうの昔に決まっていること。
 恋人なんていう存在は、私の人生に必要のない。そしてあり得ないことである。

 戯れ言は寝て言え。私は木島からの熱い視線から逃げるように立ち上がると、部屋を出ようと急いだ。
 しかし、木島は先回りをし、私が外に出ようとするのを拒むのだ。

 彼を睨み付けたのだが、木島はドアに背を預け、私をまっすぐに見つめている。
 何か言いたげなその視線に耐えきれなくなり、私は視線を逸らした。

「そこをどいてちょうだい!」
「無理だ。俺を恋人だと認めない限り、この部屋からは1歩も出さない」
「話が違うわ! 話したいことがあると言うから大人しく着いてきたの。だけど、そんな訳がわからない、しかも承諾なんて到底できないことを言い出す貴方が悪いんじゃなくて?」

 私は至極全うなことを言っているはすだ。胸を張り、「反論があるなら言ってみなさいよ」と顎をしゃくる。
 だがしかし、目の前の木島はドアの傍から離れず、私を通すことを拒み続けている。

「菊池さん。君は今、田中課長に狙われている。その身も心も、そして未来も」
「っ!」

 その通りではある。顔を歪める私に、木島は淡々と言葉を口にする。

「俺なら君を救い出せると言っているんだ」
「救い出す?」

 チラリと木島を見ると、「ああ」と彼は深く頷いた。

「君の窮地を詳しく知っているのは、ほんの一握りだ。田中課長が黒幕だと言うことを知っていて、なおかつ彼に背くことができるのは俺だけ」
「本気で言っているわけ? 田中は常務の息子よ。仕事ができるできないは別にして、彼が将来重役に就くであろうことは予想できるわよね? その相手に楯を突くと言うことは首を意味することになるのよ?」

 私のことなど気にせず、ますは自分の保身を考えてもらいたいものだ。
 そう訴える私に、木島は不敵な笑みを浮かべる。

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