意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「さすがに言い過ぎだったかもしれないわね」
誰もいないエレベーター内で、私の声だけが響く。ますます後悔に苛まれて、ガックリと肩を落とした。
「私……もしかしたら首かも」
あれだけ言い切ったのだから、あの田中と言えど、私のことは諦めてくれたことだろう。
だが、逆恨みして父親とタッグを組み、私をどこぞやの支社に飛ばすことを考えないだろうか。
(まぁ、それなら万々歳かしら)
仕事はなくならないし、一応沢コーポレーションの肩書きがついてくる。
実家との約束はまだ有効ということになるからだ。
しかし、首にされてしまったら……実家に戻って花嫁修行なるものをしなければならなくなるのか。
「人生ってままならないわねぇ」
仕事のことも気に掛かるが、木島のことを考えると憂鬱になる。
田中経由で、私が木島との間を否定したということが耳に入ったりなんてしたら、きっと恐ろしいことになるだろう。
「あーあ、私を早く地方の支社に飛ばしてくれないかしら」
それが一番の解決方法かもしれない。
これからどう転んでいくのか。考えれば考えるほど悪い方に転がってしまうように思う。
勢いに任せて今までの鬱憤を晴らし、モヤモヤした感情はすっきりしたが、今後のことを考えると後悔の念が襲ってくる。
もう少し冷静に対処すべきだった。
だがしかし、言ってしまったものは取り返しがつかない。
私はエレベーター内で大きくため息をついたのだった。