意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
 菊池麻友、三十三歳。独身。黒縁眼鏡をかけ、一度も染めたことがない真っ黒な髪はいつも華美でないバレッタで止めている。

 グレー系のパンツスーツを好み、デキる女を目指して邁進中である。
 アイライナーも表情がキツく見えるように濃く引き、涼しげな目元にするように努力をしている。

 なんでもすっぴんの私、しいてはオフでの私は年より若くみえてしまうようなのだ。
 後輩に対しての威厳、そして取引先会社の人たちに鼻であしらわれないようにするための努力は惜しまない。

 とはいえ、外見だけで仕事が回るわけはない。
 仕事で文句など誰にも言わせないよう、いつも完璧にこなしていると自負している。

 きっと上司も後輩も「菊池麻友は仕事ができる」と思ってくれているだろう。
 そう思われるように、私はかなり努力をしているのだ。

「これで明日の会議に使う書類はできたわね」

 あとは朝一番にこの資料をコピーして、会議の出席者全員に回るよう何部か作製しておけばいい。データ保存をして、私は身体を伸ばした。

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