意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
15 背水の陣
「今回の件、どうするつもりだね?」
藤沢と一緒に向かったのは、常務室だった。
そこには常務とその息子である、庶務課の課長である田中がいた。
田中にいたっては、あの件で呼び出しを食らって以来、初めて顔を合わせることになる。
木島と恋人関係なのか、そう叱咤されたときとは打って変わり、田中はどこか自信満々な雰囲気を漂わせている。
チラリと視線を向けると、田中は慌てて心配そうに私を見つめた。
そこから視線を逸らし、私に質問をしてきた常務に顔を向ける。
「今、藤沢課長よりあらかたの事情は聞きました。ですが、まだ調査もしておりません。もうしばらくお時間をいただきたいのですが」
先ほど藤沢から事情を聞いただけで、まだ私個人で調査はしていない段階である。
今後の対策などを伝えることができるほど、私自身も今回のことについて把握していない。
そのことを常務に伝えたが、聞く耳を持たないようだ。
「アダプタの件。どうやら菊池君が担当していたようだね。君が直接指示を出したんじゃないというのなら、誰が出したというのか?」
「そのことも含め、調査をさせてください。今の段階では何もお答えできません」
きっぱりと言い切る私をチラリと見たあと、常務は椅子を反転させ、背を向けてしまった。
「私は君をかなり買っていたんだよ。だからこそ、息子の嫁にとも思っていたんだ」
「……」
私のことを仕事の面で買ってくれていたというのなら嬉しいことである。
しかし、嫁としてというのなら買ってもらいたくはない。
そう大声で常務に言えたら、どんなに気持ちいいだろうか。
グッと唇を噛みしめる私に、田中は悲痛な面持ちで声をかけてくる。
「麻友ちゃん、君のミスじゃなかったとしても、仕事では責任者がすべてを背負うことになる。それはわかっているよね?」
「……」
「もう、いいんじゃないか? これが仕事を辞めるいいきっかけかもしれないよ。辛い思いをするぐらいなら常務にすべて任せたらどうだろう。なんとか取りはからってくれると思うよ」
田中の言っている意味がわからなかった。ポカンと口を開けたまま固まり続ける私の横で、藤沢が厳しい声を上げた。