意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「常務、今回の件。私に声がかからないのはおかしいでしょう?」
「君は木島くんだったかな? 海外事業部の課長……」
「そのとおりです。海外で起きた不祥事などなどの請負人が招集されている部です。今日、本社にいてラッキーでした。さて、私が今回の話お聞きいたしましょう」
常務は鼻であしらうと、木島にシッシッと手で追い払う。
「君には関係ないことじゃないか」
「関係ないでしょうか? 常務はおかしなことを言われる。何度も言わせていただきます。私は海外事業部の課長です。今回の件、どう考えても海外事業部が蚊帳の外ではおかしいでしょう?」
確かにその通りである。国内の営業活動などは本社の営業事業部が担っているが、海外の営業活動はNYを基点としている営業事業部の管轄ではある。
彼らにも今回の件で調査してもらわねばならないだろう。
しかし、常務と田中は木島が首を突っ込んでくることが気にくわない様子だ。
「わかった。では、十日間猶予をやろう」
「十日間ですか」
「ああ、その間に原因の追及、そしてすでにドイツ市場に出回ってしまったというアダプタの回収をすること。それができなかったときは、菊池くん。君に全責任を負ってもらう」
「ですから! なぜ菊池なんですか? 彼女に非はない。それに彼女の管轄外です。彼女は日本国内の営業を担っているのですから」
「それでも、インドネシアの工場スタッフからは菊池と名乗る女性から指示があったと言っているんだ。動かぬ証拠というヤツではないか?」
これ以上は聞かない、と常務は席を立ち、私に近づいてきた。
「大人しく非を認めたらどうだい? 未来の義娘になるのだから、尻ぬぐいは私がしてあげるよ」
「っ!」
クツクツと笑いながら、常務と田中は常務室を出て行ってしまった。
残された私たちの意見は同じものだった。