意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
「……仕組まれた」
間違いないだろう。常務と、その息子である庶務課課長である田中に今回のことを仕組まれたのだ。
しかし、実際に安全マークがついていないものが市場に出てしまった以上、その責任追及は海外事業部、そしてその指示をしたと言われている私に降り注ぐことは必至。
いや、私にすべての責任をかぶせるつもりでいるはずだ。
何しろ策に嵌め、私を会社を辞めさせるのが常務と田中の策略なのだから。
私が沢コーポレーションを辞めることになれば、父との約束で実家に戻るということを、田中親子は耳にしてしまったのだろう。
私がさっさと菊池家に戻り、田中と嫌々でも見合いをしていれば……こんな事態を引き起こさなくても済んだということになる。
仕事命で今まで生きてきた。それなのに、自身のプライベートのせいで仕事に支障が出ることになるだなんて……。
課の皆に、そして海外事業部の面々に申し訳なくて顔向けができない。
さっさと私が敗北を認め、常務に頼み込めば……すぐにこの難関を打開できるのだろう。
だけど―――
最悪な選択をしようかと思っていると、私の肩を木島は叩いてきた。
「何をしょげかえっている? 菊池さんらしくもない」
「木島さん」
「君は何一つ悪いことなんてしていない。そうだろう? なんせ天下の菊池女史だ。君がミスするだなんて考えられない」
「わ、私だってミスすることぐらいあるわ」
「だけど、今回のことに君は関わっていない。違うか?」
そのとおりだ。私は何一つ悪いことなんてしていない。こんなミスするわけがない。
ムクムクと常務と田中に怒りが込み上げてきた。
私のプライベートに文句があるなら直接言えばいい。仕事は関係ないはずだ。
こんなやり方、絶対に許されるわけがない。
ギュッと唇を結び、木島を見つめると、木島は嬉しそうに目を細めた。
「それでこそ、菊池麻友だ。大丈夫、君の潔白を証明しようじゃないか」
「うちの連中は君を信用している。ドーンと構えていろ」
世間一般で『いい男』認定をされている二人に頭を撫でられ、「何をするのよ!」と照れ隠しでツンと澄ます。すると二人は私の反応を見て大笑いをする。
「それでこそ、菊池女史だ」
そして再び、男たちは私の頭を優しく撫でたのだった。