意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
16 胸に刺さる小さな棘
今回のことは役員会議で問題になったようだ。
商品の回収ができなければ、菊池麻友に責任を負ってもらおうということになったという。
日本国内向けに生産された、ヨーロッパ規定の安全マークがついていないアダプタ、全部で百個。
大半は大型量販店に納入されたもので、ほとんどのものは消費者に渡る前に止めることができた。
残り三個。それがどうしてもみつからない。
ここ数日、営業事業部の面々はアダプタ探しに躍起になってくれている。
しかし、最後の最後にきて、崖っぷちに立たされることになるとは。
この事態が起きたのはつい先日らしい。恐らくだが、私が田中に反抗した日辺りじゃないかと推測する。
インドネシア工場は、外部の会社が運営しており、所謂下請け工場である。
そこに沢コーポレーションが発注をし、工場で製品を製造、輸出を行っている。
そのインドネシア工場のスタッフに、本社から「菊池」と名乗る女から電話があったというのだ。
私が連絡するときは必ず担当スタッフの名前を言って、お願いすることにしている。
それなのに、そのときその「菊池」はスタッフの名前を言わず、日本国内用に生産したもの百個を、次回ドイツに輸出するときに入れ込んでほしいという指示があったという。
その連絡があったとき、タイミング悪く私がいつもお願いしているスタッフはお休みでいなかったらしい。
そんな悪条件が重なって、よく確認もせず、おかしいということにも気が付かずに輸出してしまったということだ。
もし、その電話があったときに担当者がいてくれれば……そう思わなくもないが、終わったことをあれこれ言っていても仕方がない。