意地悪上司に求愛されています。(原題 レア系女史の恋愛図鑑)
17 辞表の行く末は?
(やっぱり、これの出番が来てしまったというわけね)
私は今、重役たちがズラリと揃った会議室に来ている。
スーツのポケットには、数日前に書いた辞表を忍ばせていて、いつこれを出そうかと考えているところだ。
海外事業部の面々、そして営業事業部のみんなが必死になって残りの三個を探してくれたが、今日になっても見つからなかった。
一体残りの三個はどうなってしまったのか。私が会社を辞めたとしても、その問題は引き続き続いていくはずだ。
ここで辞めるというのも逃げるように感じてイヤではあるが、常務との約束で全責任を私が負うとしてしまった以上、辞表を出すのは免れないだろう。
その前に辞表を受け取って貰えるだろうか。懲戒解雇とするつもりなら、次の職を探すときに苦労する。
(まぁ、その心配はもうないのか……)
父との約束では「沢コーポレーションを辞めたら実家に戻る」となっている。
次の職なんて探す機会はないだろう。
このまま田中と見合いをし、結婚ということになるのだろうか。想像が全くできないし、したくもない。
その後、木島から連絡はない。
あれだけ毎日メールのやりとりをしていたのに、ピタリと五日前になくなってしまった。
営業事業部では、すっかり木島は悪者と化してしまっている。
「二度と菊池主任の近くをうろちょろさせません!」
と息巻く後輩たちを見て、苦笑するしかできなかった。
木島に落胆するのは筋ではないだろう。もともと私の身に降り注いだことだ。
彼は彼なりに今まで私を助けてくれていた。それだけでも感謝しきれないほどだ。
だけど……傍にいてほしかった。そんなふうに思うのは、私の我が儘なのだろう。